この世界にきみさえいれば、それでよかった。




「サユ。俺が提供された心臓の寿命は10年なんだ」


……ドクン。私の中で悲しい音がする。


「今年がその10年目。自分の身体のことは自分がよく分かるっていうけど、俺はもうそんなに長くない」

我慢していたはずの涙が静かに私の頬を伝った。 



「ずっと迷いながら生きてきて、そうやって答えがでないまま終わるんだって思ってた。でも、今はもう少し長く生きたいって思う。……サユに会ってから、そう思えるようになった」


ヒロが私の身体をそっと離す。

じっと私のことを見つめるヒロの瞳を片時も逸らしたくない。



「お前すげえ弱いし俺がいなきゃダメじゃんって、大人ぶったこと言いたいけど、本当はお前がいないとダメになるのは俺のほうだと思う」

「………」

「こんなに大切になるなんて思ってもみなかった」

「ヒロ……ッ」


私もこんなに誰かを好きになるなんて思ってなかった。


ヒロはいなくなられた側の気持ちを痛いほど知ってるから、ずっと傍にいてとか、ずっと一緒にいようとか、そんな口先だけのことは絶対に言わない。


それでも、傍にいたい。ずっと一緒にいたいと思う気持ちは同じで、私たちは確かめるように、そのあとも波の音を聞きながらずっと抱きしめ合っていた。

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