この世界にきみさえいれば、それでよかった。



私はヒロに言われたとおり、駅前の本屋に立ち寄って時間を潰したあとに家へと向かった。

アパートに着いてドアの前に立つと、なにやら中からの声が外に漏れている。しかも普通の話し声ではなくて言い争っているような雰囲気。

ドキッとして、私は慌ててドアノブに手をかけると、鍵は開いたままの状態だった。


「なんだよ、それ。ふざけんなよ……!」


部屋に入った瞬間に、また荒々しい声が飛ぶ。

怒っていたのは奏介くんだった。


「心臓病?もう長くない?なに言ってんだよ。そんなこと急に言われたって信じられるわけないだろ!」

いつも穏やかな奏介くんがとても怖い顔をしていた。


「悪い。ずっと黙ってて」

興奮状態の奏介くんとは違ってヒロは冷静に言う。逆にそれが機嫌を逆撫でしたようで奏介くんの手がヒロの胸ぐらへと伸びた。


「俺ら6年も一緒にいたんだぞ?なのに、なんでそんな大事なこと今まで隠してたんだよ」

「悪い」


「悪いだけじゃわかんねーよ……っ!」と、奏介くんがヒロに殴りかかる寸前で私は声をあげた。


「やめて!!」

どうやらふたりは私が部屋にいたことに気づいていなかったみたいで、同時に視線がこっちに向く。

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