この世界にきみさえいれば、それでよかった。
「奏介くん。ヒロを殴らないで……」
そう訴えると、奏介くんは「……っ」と苛立ったようにヒロの胸ぐらから手を離してそのまま乱暴に身体を押す。
「俺は信じないし納得もしないから」
奏介くんはそう言って部屋を出ていってしまった。
「ヒロ、大丈夫?」
奏介くんは殴らなかったけれど、それ以上にヒロは浮かない顔をしていて。きっと奏介くんに打ち明けることは相当な勇気だったのかもしれない。
ふたりは私の知らない時間をたくさん過ごして、時には悪いことだって共有してきたに違いない。
友達であり、親友であり、仲間。
女の子同士のようにベタベタとした付き合いはしなくてもお互いに強い絆を感じていることは傍で見ていた私が一番分かっている。
きっと辛かったはずだ。
打ち明けたヒロも、打ち明けられた奏介くんも。
「ごめん。今は少しひとりにして」
「……うん。わかった」
ソファーに寄りかかるように座るヒロをそのままにして、私は奏介くんを追いかけることにした。