この世界にきみさえいれば、それでよかった。
「……ヒロは奏介くんに言わなかったんじゃなくて言えなかったんですよ。奏介くんのことをヒロだって大切に思ってるから、言えなかったんです……」
大切だから、近い距離にいる人だから、簡単に口に出せないこともある。
「……くそ。なんでだよ。なんでだよ……っ」
奏介くんの瞳から涙が溢れた。
あまりに大きな存在だったヒロが、いなくなる。
忽然と消えてしまった夏の間のセミのように、静かすぎる未来が私たちには待っていて。
その悲しみをどう乗り越えればいいのか。
きみがいない日常に耐えることができるのか。
ヒロがいなくなることなんて耐えられないというのに、どうして神様は、こんなにも早くヒロを連れていく準備をしてしまうのだろう。