この世界にきみさえいれば、それでよかった。
大きかったはずのヒロが少しだけ小さく感じたのは気のせいじゃない。
ヒロは夏休みが明けてからずいぶんと痩せてしまった。私の前ではやっぱり強がるけれど、ご飯もあまり食べられないくらいヒロの身体は弱ってきている。
「大丈夫。大丈夫だよ、ヒロ」
私は何度もその言葉を繰り返す。次第に肩で呼吸していたヒロが落ち着いてきた。
「前と逆だな」
私の腕の中にいるヒロが何故かクスリと笑う。
「……逆って?」
「お前が夢にうなされてた時のこと」
過呼吸になって上手く息が吸えなかった夜。ヒロは私を抱きしめて自分の酸素を送ってくれた。
そして『大丈夫、大丈夫だから』と言って、朝まで同じベッドで眠ってくれたことは一生忘れない。
ヒロがいたから、私は苦しみを乗り越えることができた。
ヒロがいたから、私はたくさんの感情を取り戻すことができた。
だからこれからは私がヒロに返す番だと思っていたのに……どうして時間は止まってくれないんだろう。
「サユ。今なら戻れる」
ヒロがゆっくりと顔を上げた。
なにを言いたいのか、なにを言おうとしてるのか。ヒロの真剣な瞳ですべてが分かった。