この世界にきみさえいれば、それでよかった。
「俺はお前を置いていなくなる。そういう悲しみをサユに背負わせたくない」
ヒロの濡れた視線がまっすぐ私を見つめていた。
ずっと強いと思っていたヒロの初めて見せた弱い顔。
「まだ戻れる。だからお前は俺のことなんて忘れて……」
「バカじゃないの」
ヒロの言葉を私は遮った。
まだ戻れる?今なら戻れる?
もう戻れないよ。こんなに心はヒロでいっぱいなのに、ヒロがいなくなるから離れるなんて、そんな選択肢は私にはない。
後戻りなんてしない。
この先、立ち上がれないような悲しみが訪れても。世界で一番大切な人との別れが待っていても。
私は、私は……。
「私はヒロが好きだよ」
好きで好きで、こんなに人を想うことなんてこれから先もないんだろうなってぐらい。
「なにがあっても傍にいる。ヒロが私をひとりにさせなかったみたいに、私もヒロをひとりで戦わせたりしないから」
「………」
「ヒロ、大好き」
その瞬間、ふわりと私の髪の毛が揺れたあと、ヒロがそっと頬に触ってゆっくりと唇が重なった。
一回目は戸惑うように。
二回目は恥ずかしそうに。
三回目はお互いの想いを確かめるようなキスだった。