この世界にきみさえいれば、それでよかった。



「ヒロ、昨日はありがとう」

「なんで礼なんて言うんだよ」

「なんとなく?」

「バカ」

軽くおでこを小突かれて、こんなやり取りでさえたまらなく嬉しい。


もしかしたらヒロにムリをさせたかもしれないし、ヒロのことを考えれば正しい行動ではなかったかもしれない。

それでも、ヒロがしてくれたのにはたくさんの意味があって。


暖かさも嬉しさも喜びも愛しさも、私があとで思い出せるように。

鮮明に色濃く、私が寂しさで押し潰されないようにと、ヒロは私に愛をくれた。



「準備できた?」

「うん」

そのあと私たちは一緒に家を出て学校に向かった。


そしてヒロが倒れたのは、それから3日後のこと。


中央総合病院に運ばれたヒロは意識不明になったけれど、駆けつけたヒロのご両親や美幸さんや奏介くんの呼びかけに応えるように、なんとか一命は取り止めた。

でも、ヒロの心音を検査した医師からは『覚悟してください』と言われて、ヒロのタイムリミットはもう目の前まで迫っていた。

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