この世界にきみさえいれば、それでよかった。



「サユちゃん」


三階の休憩スペースに座っていると、美幸さんがお花を持ってやってきた。

美幸さんはいつも殺風景なヒロの病室を明るくしようと、こうして黄色や赤の鮮やかな花を買ってくる。


「ヒロの病室に行かないの?」

「今、ご両親と話してるのでお茶でも飲んでようと座ったところです」

「ごめんね。気を遣わせちゃって」

「はは、全然大丈夫ですよ」


美幸さんが私の隣に腰を下ろすと、前に会った時よりもかなりお腹がふっくらとしていて、ゆったりとしたワンピースの上からでもよく分かる。


「ずいぶんお腹大きくなりましたね」

「うん。なんか急にね。最近はよく動いたりもするよ。触ってみる?」

「いいんですか?」

私はそっと美幸さんのお腹に触れた。


「でも人に見られたりしてるとなかなか動かないんだよね。うちの旦那もいつもタイミング悪くて……」

「あ!」

美幸さんの言葉を遮って、思わず声を出してしまった。だって今手にポコッて感触が……。


「動いたね、今」

どうやら美幸さんも分かったようだ。

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