この世界にきみさえいれば、それでよかった。
空が暗くなり丸い月が浮かぶ頃、私たちは外にいた。
本当はいけないことだけど、ヒロがどうしても外の空気が吸いたいと言って、こっそりと病院を抜け出したのだ。
「見廻りの看護婦さんにすぐバレちゃうんじゃないの?」
私はヒロがメールを送ってきたタイミングで家を出てきたので、ヒロがどうやって抜け出してきたのかは知らない。
「一応、布団の中に洋服詰めといた」
それはつまり布団を被って寝ていると見せかけるためだよね?
「絶対すぐバレるでしょ」
「まあ、そん時はなんとかするよ」
そんな話をしながら私たちの足は自然と海に向かっていた。
元々あまり人気がある場所ではないけど、もう花火をする季節でもないので今はより一層、海のさざ波を私たちだけのものにできる。
「やっぱり足、弱ってきてんな」
砂浜は歩きにくくて不安定だから私がヒロを支えながら歩いていた。
「そのぶん私に筋肉がつくからいいよ」なんて、返しながら私たちはいつもの場所へと腰を下ろす。
「なんか本当にお前、出逢った頃とは別人だよな」
少し逞しくなった私を見て、ヒロが口を緩ませた。
「変えたのはヒロだよ」
「ちげーよ。自分で変わっていったのはお前だよ」
ヒロの髪の毛がさらさらと海風で揺れる。鮮やかな金髪だったヒロは髪の毛が伸びて生え際が黒くなっていた。