この世界にきみさえいれば、それでよかった。
ヒロが倒れてから、もうすぐ1か月。
ヒロの発作はあのあと何回も起こった。そのたびにヒロは耐えて、耐えて、耐えて、今日も私の隣にいてくれている。
「サユ。俺がいなくなっても大丈夫か?」
……ドクン。
月明かりに照らされたヒロはただじっと私を見つめていた。
目を合わせられない私は不自然に言葉を早くする。
「ど、どうかな。奏介くんに影響されてすぐ彼氏とかできちゃったりしてね」
ダメだ。気を抜いたら泣いてしまう。
「ヘンな男に引っ掛かるなよ」
「もう、そこは嫉妬してよ」
「してるよ。これでも」
柔らかく笑うヒロの瞳が切なくて。
こんな時、私が言うべきなのはヒロを安心させるようなことだって分かってる。
〝私は平気だよ、だから心配しないで〟
強がりでもなんでもいいから言わなきゃって思ってるのに、喉が詰まって声が出ない。
その代わりに私から出た言葉は……。
「大丈夫じゃないよ。……全然、私大丈夫になれないよ」
覚悟してくださいと医者から言われたあの日。
私は声が枯れるまで泣いた。
ヒロの前では気丈でいようと私も病室に入る前は深呼吸する。ふたりで話していると楽しくて、嬉しくて。だからヒロに会えない時間はとても長く感じてしまう。
家にいても学校にいても、私はヒロのことばかり。
ヒロがいなくなるなんて、想像したくないし、考えたくもない。