この世界にきみさえいれば、それでよかった。
ヒロはうつ向く私の手を優しく握った。
「お前はそう言いながら、ちゃんと前を向いて生きてくよ」
「勝手に決めつけないで」
「お前は芯が強いから」
「だから勝手に……」と、私が怒ったように声を大きくすると、ヒロの瞳から一筋の涙が流れた。
ヒロが、私の前で泣いたはじめての涙。
「俺がいなくてもサユは生きるよ。俺が好きになったのは、そういう女だ」
そう言って、私を強く抱きしめる。
「……そんな言い方、ズルい」
「俺はズルいんだよ」
そんなこと言われたら頷くしかないじゃない。
そんなこと言われたら……。
一緒に連れてってなんて、口が裂けても言えないよ、バカ。
「サユ。下ばっかり向くなよ」
ヒロの掠れた声が耳に響く。
「お前のことずっと見てるから」
「……うん」
「だからもう自分がひとりだなんて思うな」
「うん」
そのひとつひとつの言葉を聞き逃さないように私は精いっぱい首を縦に振った。そして、ヒロは今あるありったけの力で、さらに私をきつく抱く。