この世界にきみさえいれば、それでよかった。
次の日。帰りのホームルームが終わったタイミングでスマホが振動していた。
画面を確認すると【着信 奏介くん】の文字。
胸騒ぎがして、すぐに電話に出た。
「もしもし」
『サユちゃんっ、ヒロが……』
ドクンと、心臓が大きく跳ねた。
そのあとバイクで学校まで迎えにきてくれた奏介くんと病院に向かった。
急いで病室に行くと、すでにヒロのお父さんとお母さんと美幸さんがいた。
慌ただしく看護士や医者が部屋を出入りしていて、ベッドの上で寝ているヒロは呼吸器をしていた。
「ヒロ……っ」
美幸さんが必死に声をかける。
何度も何度も医者は心臓マッサージをして、なんとかヒロを繋ぎ止めようとするけれど、部屋に響く心電図の音が次第に弱くなっていく。
「……ヒ、ロ」
隣で奏介くんが崩れ落ちたのを見て、これは現実なんだって分かった。
「ヒロ、ヒロ……!」と、ご両親が名前を呼んだところで、『ピー』という心電図の音。
静寂に包まれる病室で、医者はヒロの心臓マッサージをやめた。
「心臓が停止しても聴力は最後まで残ってます。なにか声をかけてあげてください」
そう言って、病室に私たちだけを残してくれた。