この世界にきみさえいれば、それでよかった。


泣きじゃくるお母さんと、それを静かに見守っているお父さん。

声も出ないくらい呆然としている奏介くんと、ただ立ち尽くしているだけの私。


全然、夢の中にいるみたいな感覚なのに、悲しみだけがどっと身体に流れこんでくる。


そんな私を見て、美幸さんが手を引っ張ってヒロの近くへと連れていってくれた。


ベッドにいるヒロは本当に眠っているみたいな顔で、手を握るとまだ暖かい体温が残っていた。



「ヒロ」

名前を呼んだ。


返事はないけれど、きっとヒロに聞こえてる。

昨日、交わした言葉を頭の中で繰り返し考えて、私がかけるヒロへの最後の言葉。



「ヒロ、頑張ったね。もう大丈夫だからね」


もう胸の苦しさに耐えなくていい。

きっと、ヒロは私や残していく人たちのために、今日まで精いっぱい生きた。


生きてくれた。



――『ちゃんと生きてサユ。俺のぶんまで生きて』

ヒロの声が聞こえた気がした。



「約束、絶対守るよ。ありがとう、本当にありがとう、ヒロ」


ヒロはみんなに見守られながら、天国へと旅立った。


とても穏やかで迷いなんて一切ない、いつもの優しいヒロの顔をしていた。

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