この世界にきみさえいれば、それでよかった。
*
一年後。またヒロと出逢った夏がきた。
去年と同じように毎日暑いけれど、今年の夏はパーカーを着ていないおかげで随分と過ごしやすい。
傷痕を隠さないようにしたら不思議と痕は薄くなっていった。
ヒロが天国へと持っていってくれたのかな、なんて最近は思えるほど、ヒロがいない毎日でも私はちゃんと息をしている。
……と、その時。
後ろを振り返ると、私を追うように砂浜の上を歩く小さな姿。
「おいで」と両手を広げて、私の元までたどり着いたところでそっと身体を抱き上げた。
「見てごらん、綺麗な海でしょ?」と、問いかける。
「う?」
「海」
目の前には、コバルブルーが広がる綺麗な海。ヒロと最初に出逢った場所であり、ヒロと最後に過ごした場所。
きょとんと目を丸くしながら、キラキラと光る水面の反射を見つめているこの子の顔はヒロそっくりだ。
愛しくて、ぎゅっとしたところで「もう、勝手に歩いていっちゃうんだから!」と美幸さんが慌てて追いかけてきた。
「すいません。私が先に来ちゃったから付いてきちゃったみたいです」
「この子普段は人見知りなのに、サユちゃんのことだけは大好きなのよね」
この子はヒロが旅立った3か月後に、無事に美幸さんのお腹から生まれてきた。