この世界にきみさえいれば、それでよかった。
すると、海辺にバイクの音が響いて、奏介くんも遅れてやってきた。
砂浜を走りながら「おーい」と手を振っていて、なぜか美幸さんは呆れた顔をしている。
「あんたさ、マフラー改造するのいい加減やめたら。超うるさいよ」
「えーカッコいいじゃないすか」
「だから彼女に振られんのよ」
「それ関係あります?」
こうしてみんなで集まることが多くなり、美幸さんと奏介くんのやり取りはまるでヒロがそこにいるかのようで、私はいつも笑ってしまう。
「ほら、奏たんだよ、おいで」と、奏介くんが私に抱っこされている美幸さんの子どもに気づいて手を伸ばした。
「ふえ……っ」
急に泣きはじめるこのパターンはお約束。
「やっぱりダメかあ。子どもにはけっこう好かれるんだけどな……」
どうにか抱っこしようと毎回頑張っているけれど、いつも失敗に終わっている。
「この子はヒロにそっくりですからね。奏たんなんて気持ち悪いって思われたんですよ、きっと」
「ヒロみたいなこと言わないでよ」
「ね?真広」と、私が名前を呼ぶと、泣いていた顔が笑顔になった。