この世界にきみさえいれば、それでよかった。


「っていうか、ビールないの?」

次に奏介くんは慣れたように冷蔵庫を開けた。中を物色しながら、奏介くんが気づかなくていいことに気づく。


「あ、なんか焦げてる!」

……ギクッ。

発見されてしまったのは、証拠隠滅をし忘れた真っ黒なハム。もちろんヒロにも見つかってしまい、ものすごく恥ずかしい。


「ごめん。勝手にフライパン……」

焦げた部分は頑張ってなんとかスポンジで擦るつもりだけど、まさか自分がここまで料理下手だったなんて自覚してなかった。
 

「勝手に使っちゃダメなほど高級なものはねーから遠慮しないで使え」と、ヒロが私の頭を軽く小突く。

そして「でも面白れーから写メとっとこ」と、ヒロが丸焦げのハムにスマホを向けたから、さすがにそれは全力で止めさせてもらった。

そんな私たちの様子を奏介くんは微笑ましく見ていたあと「んで、ヒロ。ビールは?」と話を戻す。


「お前、車だろ」

「あ、そうだった」

いや、車でも年齢的にビールはダメだと思うけど。奏介くんは仕方ないって顔で冷蔵庫の麦茶をコップに注いだ。

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