その先へ
「ごめん、赤ちゃんに泣き声きかせちゃった。胎教に悪いよね」

散々泣いたあと、私は鼻水をすすりながら輝乃のお腹をさすった。

「大丈夫よ。きっと大事な人が落ち込んでたら慰められる優しい子になる。それの予行練習、立派な胎教よ」

母になるってこういうことか。輝乃が神々しくみえる。

放っておいたスマホには新しいメッセージが画面に現れていて、

『お願い、円香。無事かどうかだけでも教えて』

懇願するようなメッセージ。
今まで奏斗がこんなに安否を気にするようなことがあっただろうか。
それだけ、私達は離れたということだ。

きっと今は愛があるだろう。奏斗も私もお互いに想いあっている。
でも、未来はない。奏斗と私の間には。
ならば、私は私の未来に向かわなければ。
奏斗のいない未来にむけて、歩き出さなければならない。

おもいっきり泣いたおかげで私は自分の心とようやく向き合うことができた。

『無事です。心配しないでください』

そんなそっけ無い文章を送り、もう一泣きしてから私は眠った。


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