ある日突然!?
扉が開き、そこに立っていたのはほんの少ししか老けた様子が見られない母だった。



母は一瞬驚いた様な素振りを見せたが、すぐに以前と同じ優しい笑顔を向けて言った。



「いらっしゃい、待ってたわ」



声音も優しく、つい演技を崩しそうになるが抑える。



それを祖父が苦笑しながら見てたが、気付いてない振りをした。



そんな演技の仮面を被った私に対して、母はニコニコしながら抱きついて話し掛けてきた。



「大きくなったわね。……ありがとう、今まで私達を守ってくれて」



礼を言われるとは思わなかった。



ただそれよりも、母に抱き締められ、これが夢でない事が分かる。



5歳の時の記憶は曖昧で、私は写真の母や妹にいつも励まされていた。



冷たいとは言わないが、動かないし話さない写真とは大違いの母の体温。



私は嬉しくなって、つい言った。



「ううん。でも、どういたしまして」



声音も変えず、口調も以前のもので。



ギリギリ気配は偽ったままだったが。



母はやはり驚いた様子を一瞬見せたが、ゆっくり離れて「行きましょ」と笑顔を見せた。



他愛ない雑談をしながら歩いていくと、母が扉の前で停まった。



「ここがリビングでね………」



そう言った後、苦笑というか………、笑顔が少し暗くなるのが目に見えた。



だが母はそのまま扉を開けた。

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