極甘同居～クールな御曹司に独占されました～

「柚希」


店に入ると、先に着いていた有香が私に手を挙げた。
これまでのよう張り切った調子ではなく、心配そうな表情だ。
私は精一杯の笑顔で有香に手を振った。


「……大丈夫？」


「うん」


平気な風を装い、有香の隣に腰かける。
でも、私の目の下のくまは今の状態を物語ってしまっているだろう。


アパートに帰った翌日、有香には彼のマンションを出たことを電話で報告した。
一人でいる夜が耐えられず、仕事をしているか、誰かと喋っていないと苦しくてたまらなかった。


「……あれから変わらず？」


「うん。何も」


彼から連絡はない。
カードも合鍵も返したし、忘れ物はない。

〝好きな人〟とうまくいったことまで置手紙で報告して、長谷川さん来訪直後のあの精神状態の中で、我ながら去り際は完璧だったと思う。


でも完璧にやりすぎて、あまりに私の生活の何もかもから彼が消えてしまい、もう息をするのも苦しいほどだった。