君の記憶の片隅で
「あ、お前…」


急に後ろから声がして、振り向いた。


後悔しても、もう遅い。


「あ、や…と」


そう、そこには元幼なじみが立っていた。


「へぇ、名前知ってんだ?」


知ってんだって、幼なじみだったから、ね。そりゃあ、わかって当然だけど…


「というか、お前と俺ってどこかで会ったことあったか?」


こんなこと言われるんだもん。誤魔化すしかなくなるんだよね。


だから誤魔化すんだ…


「あ、違うんです。この間のは、たまたま知り合いと似ていて、間違えて…」


泣くな!私!


「すみません。失礼なことしてしまい。先輩なのに。」


こんなことしか言えない私も私だ。
自分が嫌になる。


誤魔化し方下手くそだな…


変に思われるかも。


「まぁいいけど。」


そう言って毎回許してくれたんだよね。


「あれ?楓じゃん!」


「こんなとこでなにを…」


「帰って休めって言ったでしょ?なにやってるの。」


彩斗の後ろから、春馬と冬馬と桜が姿を見せた。
桜の発言はもはやお母さんのようだったけど。


「ってあれ?彩斗先輩?」


「あれ、ほんとだ。なにしてるんすか?」


今頃かって思うくらい遅い反応だったけど。
正直助かった。


「冬馬と春馬は、この子と友達なのか?」


友達もなにも、今の幼なじみですから。
仲良く4人で暮らしてますよ。


「まぁ、幼なじみっす。」


「僕たち4人とも実家が近くて、今は1つの家に住んでいるんです。」


「そうだったのか。」


「「彩斗先輩??」」


急に彩斗の顔が曇り、少し悲しげに話した。


「俺にも幼なじみがいたんだ。」

っと。


「え…」


正直驚いた。こんなに早く思い出してくれるなんて!


って思った、私がバカだったんだ。


「でも、小学生の頃にあいつは引っ越して、中学、高校に上がるにつれて、あいつの顔が思い出せなくなった。」


「っ!?」


これ以上聞きたくないと思った。聞いたら、全てが終わるって。


でも…聞きたいって好奇心が勝っちゃって、
聞きたくないのに聞いちゃうの


「写真ってとらなかったんですか?」


知ってるのに…彼が写真苦手だって。


「一回だけ撮ったんだけど…その写真は、引っ越す日に彼女に、あいつに渡したんだ。」


それなら、私に渡さなければよかったのに…


「こんなことになるなら、忘れてしまうなら、もっと思い出作って、写真いっぱい撮っておくべきだった!」


そんな悲しい顔するくらいなら、渡して欲しくなかった。


「先輩…今日は帰りましょう。」


「冬馬…そうだな。取り乱してすまない。
途中まで一緒に変えるか?」


「まじ!先輩と帰れるとか、ラッキー」


春馬が元気よく喜んでいるところ悪いけど、震えが止まらない。
今、彩斗にどんな顔をすればいいかわからない。


もし、私が引っ越した幼なじみだって知ったら…
そう考えると、震えが止まらなくなる。


「大丈夫だよ。楓…落ち着いて。」


「桜…」


震えていたことが桜に見つかり、そっと撫でてくれた。
彩斗に気付かれなくて、本当に良かった。


このまま、思い出さなくてもいいんじゃないか…って思っちゃう。


歩くこと数十分


やっと家の前まで来た。


「それじゃ彩斗先輩!」


「僕たちここなので。」


「え…お前らここに住んでいるのか?」


「はい!俺たち、ここに住んでいるんす。ここが楓が住んで、モガ!」


「気にしないでくださいね?ここに住んでいるのは本当ですが。」


とっさに桜が春馬の口を塞いでくれたから助かった。


ここは元々私が住んでいた家。つまり、お隣は彩斗先輩の家ということになる。


「今度挨拶に伺いますので、それでは…」


私はそれだけ言い、玄関へ入っていった。


彩斗がいないときに挨拶行こうかな…
彩斗のお母さんは、覚えてそうだし…
たまに写真とか送ってたからなぁ、お母さんが。
わかるだろうなぁ


「わかった?!楓のことは今後一切、あの先輩には話さないこと!春馬も冬馬もわかった?」


部屋で寝っ転がっていた私は、やっと入ってきたらしい、桜たちを見に行くと。
言い合いになっていた…


おぉい。喧嘩しないでよぉ?


「そうだったのか!今度からきおつける。」


「心配だから、冬馬は春馬の見張りよろしく!」


「え?わ、わかった。」


冬馬の反応、可愛い。
春馬と双子とは思えない。


「楓ー?隣に挨拶行くよ?」


へ?早くない?!今行ったら彩斗いる。それに彩斗のお母さんも。



それにしても、行く気満々の格好ね。春馬…
それにしたら、冬馬は少しめんどくさそう。


「そういえば、お隣さんは彩斗先輩の家らしいわよ。」


桜がそういうと、まじか!みたいな顔になって行く気満々になっちゃった。
こりゃ行くしかないのか。


「はーい。行きます。行きます。」


こうして、私たちはお隣へ、彩斗の家へ挨拶に向かった。
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