【短編】親愛なる夜
第四章『朝』
夜の終わり
僕と仁美は、砂浜に出て、
波打ち際まで歩いた。
二人で、陽が昇るのを待っ
ていた。
僕は仁美に、
「どうして、今になって、
僕の前に現れたんだ?」と
聞いた。
「私の死は、私自身にとっ
ても、恒介にとっても、突
然だったよね?」
「うん。思いがけない事故
だったからな」
「私だって、自分の死を確
信するのに、時間がかかっ
たの」
「え?」
「それはね、私が、自分の
死を受け入れるまでの時間
であり、恒介にも、日常の
ワンピースとしての私を忘
れて、思い出としてくれる
までの時間でもあったの」
「うん」
「でも、恒介は、私のこと
を待ち続けている。一年前
の今日から、今日まで、ず
っと…」
「!」
「このままじゃ、逝けない
よ。ずっと続いている恒介
の夜を終わらせないと、逝
けないでしょ?」
「終わらない夜は、辛かっ
たよ」
「それも、今日で終わり」
「仁美、ありがとう。僕を
励ましにきてくれて」
「こちらこそ、ずっと、私
のことを待っていてくれて
…ありがとう」と言って、
仁美が、見上げた空は、少
しづつ明るくなってきてい
た。
「逝くんだね」
「うん」
「もう、会えないのかな」
「そうね」
「生まれ変わりとかあれば
また…」
「そうなれば、ステキだけ
ど…。私は、そんな先のこ
とより、恒介が、今生きて
いる、この時間を、この世
界を大切にして欲しい」
「わかった」
「それに、私は、無にかえ
りたい」
「無に…?」
「うん。もう、すべて終わ
ったから、すべて無くなり
消えてしまいたい」
「仁美らしいな」
「恒介、苦しくても生きて
ね」
「ああ」
仁美が、差し出した両手を
長く美しい指を、僕はシッ
カリと握った。
波打ち際まで歩いた。
二人で、陽が昇るのを待っ
ていた。
僕は仁美に、
「どうして、今になって、
僕の前に現れたんだ?」と
聞いた。
「私の死は、私自身にとっ
ても、恒介にとっても、突
然だったよね?」
「うん。思いがけない事故
だったからな」
「私だって、自分の死を確
信するのに、時間がかかっ
たの」
「え?」
「それはね、私が、自分の
死を受け入れるまでの時間
であり、恒介にも、日常の
ワンピースとしての私を忘
れて、思い出としてくれる
までの時間でもあったの」
「うん」
「でも、恒介は、私のこと
を待ち続けている。一年前
の今日から、今日まで、ず
っと…」
「!」
「このままじゃ、逝けない
よ。ずっと続いている恒介
の夜を終わらせないと、逝
けないでしょ?」
「終わらない夜は、辛かっ
たよ」
「それも、今日で終わり」
「仁美、ありがとう。僕を
励ましにきてくれて」
「こちらこそ、ずっと、私
のことを待っていてくれて
…ありがとう」と言って、
仁美が、見上げた空は、少
しづつ明るくなってきてい
た。
「逝くんだね」
「うん」
「もう、会えないのかな」
「そうね」
「生まれ変わりとかあれば
また…」
「そうなれば、ステキだけ
ど…。私は、そんな先のこ
とより、恒介が、今生きて
いる、この時間を、この世
界を大切にして欲しい」
「わかった」
「それに、私は、無にかえ
りたい」
「無に…?」
「うん。もう、すべて終わ
ったから、すべて無くなり
消えてしまいたい」
「仁美らしいな」
「恒介、苦しくても生きて
ね」
「ああ」
仁美が、差し出した両手を
長く美しい指を、僕はシッ
カリと握った。