【短編】親愛なる夜
「じゃあ、逝くね」

「ああ、元気で…ってのも
おかしいか」

「死んでいるからね」

「バイバイ、仁美」

「バイバイ、恒介」と言っ
て、仁美は、いつものよう
に虚ろに笑った。

仁美の体が、霞むように淡
い光となり、少しづつ消え
はじめた。

僕は、仁美が消えてしまう
前に、引き寄せて抱きしめ
た。

僕の腕の中で、仁美の体は
完全に消えた。

僕の両手は、行き場をなく
してしまった…。

僕は、ゆっくりと両膝をつ
き、その場に座り込んだ。

しばらくは、立ち上がる力
もないだろう。

『無にかえると言っていた
仁美は、とても、とても優
しい光になった…』

そして、
僕の夜が終わった。

僕は子供のように泣いた。
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