【短編】親愛なる夜

恒介

振り返った僕は、あり得な
い状況に驚愕した。

仁美がそこに立っていた。

そして、
「恒介、待たせて、ゴメン
ね」と言った。

「仁美…か?」

「久しぶりね」

「これは、夢なのか…?」

「ううん。現実だよ」

「でも、キミは、どうして
?」

「恒介、とりあえず、こっ
ちにきなよ」と言って、仁
美は右手を差し出した。

間違いなく、長い指がキレ
イな仁美の手だった。

僕は、戸惑いながらも、そ
の手を握った。

冷たかった。

「…冷たい手でしょ?」と
言って、仁美は虚ろに笑っ
た。

そして、
「…幽霊だからね」と言っ
た。
< 9 / 16 >

この作品をシェア

pagetop