しあわせ食堂の異世界ご飯
夜になり、お風呂を終え自室でまったりしているとノックの音が響く。
そしてすぐに聞こえる、「シャルルです」という声。どうやらシャルルが王城から帰ってきたようだ。
「おかえりなさい、シャルル」
「ただいま戻りました」
ドアを開けて部屋へ招き入れると、「ふぅー」とシャルルは一息つく。
無事に王城で情報を得てこられたようで、その表情はどこか達成感をにじませている。そんなシャルルにお茶を淹れて、今の王城の状況などを話す。
まずは、現在のほかの妃候補たちについて。
簡単に言えば、アリアのライバルにあたる各国の姫たちだ。
ジェーロ帝国の王妃となるため王城に滞在しているが、どの姫も皇帝と接触はしていないのだという。
「何人かの姫様はあきらめて、国へお帰りになったようです。今は、四人の姫君が残っているそうですよ」
「そうなの……」
「残っている方たちは、小国と大国の姫様がお二人ずつですね」
シャルルの言葉を聞き、アリアは「でしょうね」とため息をつく。
小国の姫であれば、国の強化のための帝国との婚姻は喉から手が出るほどほしい。
大国の姫であれば、国王から勢力拡大のため何としてでも婚姻を結べと命令されているはずだ。
残っている姫は、アリアを含めて五人だ。
「姫様たちは、特に何もせず王城で優雅に暮らしているそうですよ」
「私には暇で耐えられそうにないわね……」
結婚するべき相手とも接触がなく、国にも帰れず、王城で毎日過ごすだけ。
一見優雅でいいかもしれないが、とても辛いだろう。
「アリア様は、これからどうしたいですか?」
「え?」
「私は……冬が来る前にエストレーラに帰るのがいいと思うんです」
シャルルは少し俯きながら、自分の考えをアリアに伝える。
「確かにここでの生活は楽しいですけど、アリア様はいつかリベルト陛下の妃になるか、国に帰る決断をしなければいけません。ずっと、この【しあわせ食堂】にいることはできません」
「……わかってるわ、もちろん」
とはいえ、エストレーラから手紙の返事が来ないうちは、勝手に帰国するわけにはいかないのだ。
アリアは小さく首を振って、その判断はまだできないとシャルルに告げる。もちろん、近いうちにしなければいけない決断だが、それは今ではないとアリアは思う。
――それに、やっと仲良くなれたのに。
「……え?」
「アリア様?」
「あ、うぅん、なんでもない」
思わず思い浮かべてしまった顔に、アリアは声をあげて首を振る。
誰かのことを考え、ここに残りたいなんて思ってはいけない。アリアの作ったおにぎりを美味しいといってもらえたことが嬉しくて、きっと舞い上がってしまっただけだろう。
――それに、ジェーロにしかない食材や調味料も使ってみたい。
彼だけがここに残りたい理由ではないと、アリアは自分に言い聞かせる。
「とりあえず、エストレーラから手紙が来るのを待ちましょう。シャルルに教えてもらったことも追加で手紙にするから、明日手配してもらえる?」
「わかりました」
「遅くまでごめんね。ありがとう、シャルル」
「いいえ。私はアリア様の侍女ですから」
ひとまずの話し合いを終え、シャルルも休むため隣にある自室へと戻っていった。
それを見送ったアリアはベッドに倒れ込んで、大きく息をつく。
現状維持ができたら一番いいと思っていたけれど、シャルルに言われてしまっては今後のことをもう少し真剣に考えなければいけないだろう。
「シャルルだって、私のことを心配してああ言ってくれてるんだもんね」
このまま食堂で料理人をしているわけにもいかない……のかもしれない。
アリアはエストレーラの王女で、しなければいけない役目があるのだから。
***
「はぁ……本当にしあわせ食堂の、この『カレー』は絶品ね」
「私が狙ってたのはハンバーグだったのに、まさか開店して一時間で売り切れちゃうなんて……」
アリアとシャルルが今後の話し合いをしてから、数日が経った。
今日もしあわせ食堂は満席で、カレーを味わいお客さんが舌鼓を打っている。しかし、お客さんの一人が呟いたように、ハンバーグだけはすでに品切れだ。
――もっと用意できたらいいんだけどなぁ。
ハンバーグは量産体制を取れるわけではないので、今の数が限界なのだ。食べたい人には、申し訳ないが早く来てもらうしかない。
「アリア、カレー三皿頼む」
「はーい」
何かを考えている暇は与えないと言わんばかりに、カミルが追加の注文を持ってくる。すぐにご飯とカレーをよそい、サラダを付けてカミルに託す。
メニューが二種類しかないため、給仕と厨房はほとんど流れ作業だ。
それからしばらく忙しい時間が続き、カレーの残量を見て、外で並んでいる人で終了の合図を行う。
こうして、しあわせ食堂の閉店時間は決まるのだ。
何人かのお客さんが入れ替わり、最後に入ってきたのはリントだった。
カミルが席に案内して、そのまま厨房にいるアリアへ声をかける。
「あれ、いらっしゃい。アリアー、リントさんが来たぞ」
「え、本当? いらっしゃいませ!」
まだ手が離せないアリアは、厨房から少しだけ顔を覗かせてリントに手を振る。しかしすぐ引っ込んだため、本当に一瞬だ。
シャルルはお冷を出しながら、リントに今日は一人なのかと問いかける。
「ローレンツさんはご一緒じゃないんですか?」
「ああ、今日は別件で仕事をしてもらっているが……」
「そうですか……」
リントの答えを聞いて、シャルルは少し残念に思う。
森で見たローレンツの剣技が素晴らしかったので、会えた時は戦いに関する話をしたいと思っていたのだ。
「ローレンツに何か用事か?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……剣技がすごかったので。ちょっと憧れただけです」
「ああ……」
シャルルの言葉を聞き、リントはなるほどと頷く。
そしてタイミングよくカレーも出たので、リントはゆっくり昼食をとりはじめた。
そしてすぐに聞こえる、「シャルルです」という声。どうやらシャルルが王城から帰ってきたようだ。
「おかえりなさい、シャルル」
「ただいま戻りました」
ドアを開けて部屋へ招き入れると、「ふぅー」とシャルルは一息つく。
無事に王城で情報を得てこられたようで、その表情はどこか達成感をにじませている。そんなシャルルにお茶を淹れて、今の王城の状況などを話す。
まずは、現在のほかの妃候補たちについて。
簡単に言えば、アリアのライバルにあたる各国の姫たちだ。
ジェーロ帝国の王妃となるため王城に滞在しているが、どの姫も皇帝と接触はしていないのだという。
「何人かの姫様はあきらめて、国へお帰りになったようです。今は、四人の姫君が残っているそうですよ」
「そうなの……」
「残っている方たちは、小国と大国の姫様がお二人ずつですね」
シャルルの言葉を聞き、アリアは「でしょうね」とため息をつく。
小国の姫であれば、国の強化のための帝国との婚姻は喉から手が出るほどほしい。
大国の姫であれば、国王から勢力拡大のため何としてでも婚姻を結べと命令されているはずだ。
残っている姫は、アリアを含めて五人だ。
「姫様たちは、特に何もせず王城で優雅に暮らしているそうですよ」
「私には暇で耐えられそうにないわね……」
結婚するべき相手とも接触がなく、国にも帰れず、王城で毎日過ごすだけ。
一見優雅でいいかもしれないが、とても辛いだろう。
「アリア様は、これからどうしたいですか?」
「え?」
「私は……冬が来る前にエストレーラに帰るのがいいと思うんです」
シャルルは少し俯きながら、自分の考えをアリアに伝える。
「確かにここでの生活は楽しいですけど、アリア様はいつかリベルト陛下の妃になるか、国に帰る決断をしなければいけません。ずっと、この【しあわせ食堂】にいることはできません」
「……わかってるわ、もちろん」
とはいえ、エストレーラから手紙の返事が来ないうちは、勝手に帰国するわけにはいかないのだ。
アリアは小さく首を振って、その判断はまだできないとシャルルに告げる。もちろん、近いうちにしなければいけない決断だが、それは今ではないとアリアは思う。
――それに、やっと仲良くなれたのに。
「……え?」
「アリア様?」
「あ、うぅん、なんでもない」
思わず思い浮かべてしまった顔に、アリアは声をあげて首を振る。
誰かのことを考え、ここに残りたいなんて思ってはいけない。アリアの作ったおにぎりを美味しいといってもらえたことが嬉しくて、きっと舞い上がってしまっただけだろう。
――それに、ジェーロにしかない食材や調味料も使ってみたい。
彼だけがここに残りたい理由ではないと、アリアは自分に言い聞かせる。
「とりあえず、エストレーラから手紙が来るのを待ちましょう。シャルルに教えてもらったことも追加で手紙にするから、明日手配してもらえる?」
「わかりました」
「遅くまでごめんね。ありがとう、シャルル」
「いいえ。私はアリア様の侍女ですから」
ひとまずの話し合いを終え、シャルルも休むため隣にある自室へと戻っていった。
それを見送ったアリアはベッドに倒れ込んで、大きく息をつく。
現状維持ができたら一番いいと思っていたけれど、シャルルに言われてしまっては今後のことをもう少し真剣に考えなければいけないだろう。
「シャルルだって、私のことを心配してああ言ってくれてるんだもんね」
このまま食堂で料理人をしているわけにもいかない……のかもしれない。
アリアはエストレーラの王女で、しなければいけない役目があるのだから。
***
「はぁ……本当にしあわせ食堂の、この『カレー』は絶品ね」
「私が狙ってたのはハンバーグだったのに、まさか開店して一時間で売り切れちゃうなんて……」
アリアとシャルルが今後の話し合いをしてから、数日が経った。
今日もしあわせ食堂は満席で、カレーを味わいお客さんが舌鼓を打っている。しかし、お客さんの一人が呟いたように、ハンバーグだけはすでに品切れだ。
――もっと用意できたらいいんだけどなぁ。
ハンバーグは量産体制を取れるわけではないので、今の数が限界なのだ。食べたい人には、申し訳ないが早く来てもらうしかない。
「アリア、カレー三皿頼む」
「はーい」
何かを考えている暇は与えないと言わんばかりに、カミルが追加の注文を持ってくる。すぐにご飯とカレーをよそい、サラダを付けてカミルに託す。
メニューが二種類しかないため、給仕と厨房はほとんど流れ作業だ。
それからしばらく忙しい時間が続き、カレーの残量を見て、外で並んでいる人で終了の合図を行う。
こうして、しあわせ食堂の閉店時間は決まるのだ。
何人かのお客さんが入れ替わり、最後に入ってきたのはリントだった。
カミルが席に案内して、そのまま厨房にいるアリアへ声をかける。
「あれ、いらっしゃい。アリアー、リントさんが来たぞ」
「え、本当? いらっしゃいませ!」
まだ手が離せないアリアは、厨房から少しだけ顔を覗かせてリントに手を振る。しかしすぐ引っ込んだため、本当に一瞬だ。
シャルルはお冷を出しながら、リントに今日は一人なのかと問いかける。
「ローレンツさんはご一緒じゃないんですか?」
「ああ、今日は別件で仕事をしてもらっているが……」
「そうですか……」
リントの答えを聞いて、シャルルは少し残念に思う。
森で見たローレンツの剣技が素晴らしかったので、会えた時は戦いに関する話をしたいと思っていたのだ。
「ローレンツに何か用事か?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……剣技がすごかったので。ちょっと憧れただけです」
「ああ……」
シャルルの言葉を聞き、リントはなるほどと頷く。
そしてタイミングよくカレーも出たので、リントはゆっくり昼食をとりはじめた。