しあわせ食堂の異世界ご飯
けれど現実は、自分が思うよりずっと残酷なのだ。
何事もなく朝になって目覚めたアリアは、いつものように厨房に立った――までは、まぁよかった。けれど普段と違うことが一つ。
リントとロベルトが二人で昼食をとりに来たのだ。
思わず、昨日の今日でこれはキツイ――! と、心の中で叫んでしまったのも仕方がないだろう。
しかもカミルが仕入れで出かけているため、アリアもちょこちょこ店内の手伝いをしている。
案の定、リントとローレンツはアリアに話しかけてきた。
「今日も大繁盛だな」
「いらっしゃいませ、リントさん、ローレンツさん。注文はお決まりですか?」
とはいっても、ハンバーグは品切れなので頼めるメニューはカレーしかない。単品でストロガノフと卵焼きがあるだけだ。
「……いつ来てもハンバーグは品切れなんだな」
「そうですね。お昼前になくなっちゃうんです」
「昼前か……すごいな」
感心するリントと、純粋に驚くローレンツ。
「そんなに美味しいなら、今度は開店前に並ばないといけませんね?」
「ローレンツ、さすがにそんな時間はない」
「わかっていますよ」
どうやら仕事が忙しいようで、ハンバーグにはありつけそうにないですねとローレンツが苦笑している。
「っと、注文だな。カレーを二つと、俺はストロガノフと卵焼き」
「あ、私もストロガノフと卵焼きお願いします」
「かしこまりました」
アリアが厨房に戻って調理を開始すると、シャルルも卵焼きの注文を通してくる。メニューが少ないからか、ほとんどのお客さんが注文してくれるのだ。
卵を割り、そこへ調味料を入れてかき混ぜフライパンへ流し込む。じゅわあっという音と、卵の焼けるいい匂いが漂う。
――料理をしてると、余計なことを考えなくていいね。
今はリントの素性よりも、目の前にあることに集中しよう。アリアがそう思った瞬間、店内からしたガラの悪い男の声が厨房まで届いた。
「え?」
もしかして、以前のようにクレーマーだろうか?
アリアはやれやれと思いながら店内へ向かう。すると、今回はエマがクレーマーの対応をしてくれていた。
「まあまあ、落ち着きなって。なんでいきなり怒鳴ってるんだい」
「決まってるだろ、この料理だよ! 菓子じゃなくて飯が甘いなんて、聞いたことがない。馬鹿げてるだろ!!」
どうやら、注文した卵焼きが甘くて文句を言っているらしい。
一応メニューには甘めと注意事項を付け加えているのだが、あのクレーマーは文字が読めなかったのだろうか。
すぐクレーマーに対応をしようと思ったアリアだが、店主であるエマがいるのであれば任せた方がいいかもしれないと考える。
もし何かあっても、店内にはシャルルがいるので暴力沙汰にはならないだろう。
なんていう考えは、甘かった。
アリアのコックシャツを見て、クレーマーが卵焼きを作った料理人だということに気付いたのだ。
――仕方ない。
「私が卵焼きを作ったアリアです。お客様の口に合わなかったようで、大変申し訳ございません」
ひとまず謝り、頭を下げる。
これで満足して帰ってくれれば、こちらとしては楽でいい。
「謝ればいいってもんじゃないだろ?」
――あ、話が通じない人だ。
アリアは内心でため息をつき、クレーマーの男を見る。
簡易的ではあるが、皮鎧を着ているので護衛や傭兵の職業に就いているのだろう。腕っぷしに自信があるのは、鍛えられた筋肉を見れば一目瞭然だ。
「メニューには甘い料理だということを記載させていただいておりましたが、今度は口頭でもその旨をお伝えするようにさせていただきます。……それでよろしいですか?」
「いやいやいや、今後のことを言われたって俺には関係ない」
アリアが笑顔で対応するも、男は耳を貸そうとしない。
ほかの席で食事をしているお客さんたちも、アリアとクレーマーの二人に視線を向けている。けれど、クレーマーの見てくれが強そうなので声をかけようとはしない。
エマも気丈に振舞ってはいたけれど、足が震えてしまったようで壁に寄りかかるようにして立っている。
さて、どう納得してもらおうか。
アリアがそう考えるも、男自らがある提案をしてきた。それもとびきり下品な方法で、だ。
「姉ちゃん可愛いからな、俺の相手をしてくれるってんなら……今回のことを許してやってもいいぜ?」
「…………」
にやにやした笑みを浮かべるクレーマーの目的はそれかと、うんざりする。
おそらく卵焼きの味なんて関係なくて、初めから目的はアリアだったのだろう。ほかの店でもこんな横暴なことをしているのかと考えると、無性に腹が立つ。
どう懲らしめるのがいいか。そうアリアが考えるよりも早く、がたんと椅子の動く音がした。
「それは聞き捨てならないな」
「リントさん!」
腰の剣に手を添えて、クレーマーの男を睨みつけている。今にも切りつけそうな雰囲気に、アリアは焦って二人の間に立つ。
「店内での乱闘は駄目ですよ! リントさん、私は大丈夫ですから座ってください。ね?」
「いや、しかし……」
アリアは息をついて、改めてクレーマーの男を見る。
「先ほどおっしゃられたことですが」
「ああ、今から行くか?」
「いいえ? もちろん、お断りさせていただきます。初めに言った通り、メニューに記載をさせていただいていますから」
アリアの言葉を聞き、クレーマーは苛立ったように舌打ちをする。
「俺はぁ、お客様なんですけどぉ?」
「いいえ?」
「は?」
厭味ったらしく自分を客だという男に、アリアは優しく微笑んでそれを否定する。
「ここは名前の通り、食事をして幸せになってもらう場所です。それを壊そうとする方は、お客様ではありませんから」
「……いい度胸だな、このあま」
「私は料理人です。この場所を守る義務がありますし、それを壊そうとする相手に屈するようなことはありません」
背筋をピンと伸ばし、静かに告げたアリアに、クレーマーは息を呑む。
どこか空気が重く、居心地が悪い。
それを作り上げているのが目の前にいる女――アリアだということに、クレーマーはひどく嫌な気分にさせられる。
たかが利用されるだけの女が、なぜ客である自分に歯向かってくるのか。
そう思ってから、男の行動は早かった。気付いたときには、アリア目掛けてその拳を振り上げていた。
ビビレ! と、男は思っただろう。けれど、アリアは自分目掛けて振り下ろされている拳を瞬きせずに見つめ、あまつさえ笑みを深める。
「クソッ」
「シャル――っ!?」
ダァンッ!!
大きな音が店内に響き、クレーマーの男が背中から床に転がった。いったい何が起きたのだと、店内にいる全員が目を瞬かせる。
そしてその原因に気付き、今度は大きく目を見開くのだ。
クレーマーの男の拳を止め、床に叩きつけたのは小柄な給仕の少女――シャルルだった。まさかこんな少女が!? と、誰もが驚いている。
そしてアリアはというと、別の意味で息を呑み目を見開いていた。
「あ……っ、り、りんと、さん?」
アリアは、背後からリントに抱きしめられていた。
男の攻撃から守るため、リントが咄嗟にアリアを引き寄せたのだ。そのままリントの腕の中に納まって、今に至る。
顔を赤くしてアリアが振り向くと、リントが慌ててその手を離す。
「す、すまない! 咄嗟に手が出てしまったようだ。シャルルさんがいたから、無用の心配だったな」
「いえ! ありがとうございます、助かりました」
先ほど男と対峙した時よりも恥ずかしくて、アリアはどこかに逃げ込んでしまいたい気持ちになる。
けれど、気絶したクレーマーの男を放置してどこかに行くわけにもいかない。
シャルルが「邪魔ですね」と言って店の外に引きずっていってくれたので、兵士に連絡して引き取りに来てもらうのがいいだろう。
アリアは店内をぐるりと見回して、頭を下げる。
「お騒がせしてしまって、申し訳ありません。このお詫びは――」
「そんなの必要ないぞ、アリアちゃん! 格好良かったぞ!」
「前のときも思ったけど、よく怖い男に立ち向かっていけるよね。私、スカッとしちゃったわ!」
店内で食事をしていたほかの方を怖がらせてしまったので、何かお詫びをしなければ……と思ったのだが、客の全員がそれをいらないと言ってアリアとシャルルを褒めたたえる。
「そこの仏頂面の兄ちゃんも、アリアちゃんを助けようとしてくれて格好良かったぞ!」
「ヒューヒュー」
今度はお客さんの声がリントに向けられて、その眉間に皺がよる。あまり人との交流に慣れていないからか、嫌そうだ。
しかしそれよりも、リントには気になることが一つあった。
「アリアさん、前のときとは? クレームは、今回が初めてじゃないのか?」
「あー、私がこのお店に来た初日にもあったんですよね。なので、そのときのことを言っているんだと思います」
「……無茶をするな、心配になる」
とりあえず無事でよかったと、リントがアリアの頭をポンと軽く撫でる。そのままローレンツの方へ向いて、行くぞと手でドアの方向を示す。
「……アリアさん。シャルルさんが外に転がした男は、俺たちが兵士に渡しておく。何かあれば俺に言ってくれ」
「え、あ、はい……っ」
そう言い、リントはローレンツに男を引きずるよう指示を出している。
思わず頷いてしまったアリアだったが、店のことを部外者であるリントたちに任せてしまっていいのかと慌てるが、「問題ありません」とローレンツにも言われてしまう。
アリアはシャルルと一緒に、リント、ローレンツの後に続いて店の外に出る。まだ気絶している男の腕をローレンツが掴む。
「じゃあ……すみませんが、お願いします」
「はい。承りました」
「またな」
アリアが改めてお願いすると、ローレンツが頷いて男を引きずり始めた。その後に、リントも別れの挨拶をしてローレンツの後を歩いて行く。
本当に引きずっていくんだ……と、アリアはシャルルとリントたちが見えなくなるまで見送った。
何事もなく朝になって目覚めたアリアは、いつものように厨房に立った――までは、まぁよかった。けれど普段と違うことが一つ。
リントとロベルトが二人で昼食をとりに来たのだ。
思わず、昨日の今日でこれはキツイ――! と、心の中で叫んでしまったのも仕方がないだろう。
しかもカミルが仕入れで出かけているため、アリアもちょこちょこ店内の手伝いをしている。
案の定、リントとローレンツはアリアに話しかけてきた。
「今日も大繁盛だな」
「いらっしゃいませ、リントさん、ローレンツさん。注文はお決まりですか?」
とはいっても、ハンバーグは品切れなので頼めるメニューはカレーしかない。単品でストロガノフと卵焼きがあるだけだ。
「……いつ来てもハンバーグは品切れなんだな」
「そうですね。お昼前になくなっちゃうんです」
「昼前か……すごいな」
感心するリントと、純粋に驚くローレンツ。
「そんなに美味しいなら、今度は開店前に並ばないといけませんね?」
「ローレンツ、さすがにそんな時間はない」
「わかっていますよ」
どうやら仕事が忙しいようで、ハンバーグにはありつけそうにないですねとローレンツが苦笑している。
「っと、注文だな。カレーを二つと、俺はストロガノフと卵焼き」
「あ、私もストロガノフと卵焼きお願いします」
「かしこまりました」
アリアが厨房に戻って調理を開始すると、シャルルも卵焼きの注文を通してくる。メニューが少ないからか、ほとんどのお客さんが注文してくれるのだ。
卵を割り、そこへ調味料を入れてかき混ぜフライパンへ流し込む。じゅわあっという音と、卵の焼けるいい匂いが漂う。
――料理をしてると、余計なことを考えなくていいね。
今はリントの素性よりも、目の前にあることに集中しよう。アリアがそう思った瞬間、店内からしたガラの悪い男の声が厨房まで届いた。
「え?」
もしかして、以前のようにクレーマーだろうか?
アリアはやれやれと思いながら店内へ向かう。すると、今回はエマがクレーマーの対応をしてくれていた。
「まあまあ、落ち着きなって。なんでいきなり怒鳴ってるんだい」
「決まってるだろ、この料理だよ! 菓子じゃなくて飯が甘いなんて、聞いたことがない。馬鹿げてるだろ!!」
どうやら、注文した卵焼きが甘くて文句を言っているらしい。
一応メニューには甘めと注意事項を付け加えているのだが、あのクレーマーは文字が読めなかったのだろうか。
すぐクレーマーに対応をしようと思ったアリアだが、店主であるエマがいるのであれば任せた方がいいかもしれないと考える。
もし何かあっても、店内にはシャルルがいるので暴力沙汰にはならないだろう。
なんていう考えは、甘かった。
アリアのコックシャツを見て、クレーマーが卵焼きを作った料理人だということに気付いたのだ。
――仕方ない。
「私が卵焼きを作ったアリアです。お客様の口に合わなかったようで、大変申し訳ございません」
ひとまず謝り、頭を下げる。
これで満足して帰ってくれれば、こちらとしては楽でいい。
「謝ればいいってもんじゃないだろ?」
――あ、話が通じない人だ。
アリアは内心でため息をつき、クレーマーの男を見る。
簡易的ではあるが、皮鎧を着ているので護衛や傭兵の職業に就いているのだろう。腕っぷしに自信があるのは、鍛えられた筋肉を見れば一目瞭然だ。
「メニューには甘い料理だということを記載させていただいておりましたが、今度は口頭でもその旨をお伝えするようにさせていただきます。……それでよろしいですか?」
「いやいやいや、今後のことを言われたって俺には関係ない」
アリアが笑顔で対応するも、男は耳を貸そうとしない。
ほかの席で食事をしているお客さんたちも、アリアとクレーマーの二人に視線を向けている。けれど、クレーマーの見てくれが強そうなので声をかけようとはしない。
エマも気丈に振舞ってはいたけれど、足が震えてしまったようで壁に寄りかかるようにして立っている。
さて、どう納得してもらおうか。
アリアがそう考えるも、男自らがある提案をしてきた。それもとびきり下品な方法で、だ。
「姉ちゃん可愛いからな、俺の相手をしてくれるってんなら……今回のことを許してやってもいいぜ?」
「…………」
にやにやした笑みを浮かべるクレーマーの目的はそれかと、うんざりする。
おそらく卵焼きの味なんて関係なくて、初めから目的はアリアだったのだろう。ほかの店でもこんな横暴なことをしているのかと考えると、無性に腹が立つ。
どう懲らしめるのがいいか。そうアリアが考えるよりも早く、がたんと椅子の動く音がした。
「それは聞き捨てならないな」
「リントさん!」
腰の剣に手を添えて、クレーマーの男を睨みつけている。今にも切りつけそうな雰囲気に、アリアは焦って二人の間に立つ。
「店内での乱闘は駄目ですよ! リントさん、私は大丈夫ですから座ってください。ね?」
「いや、しかし……」
アリアは息をついて、改めてクレーマーの男を見る。
「先ほどおっしゃられたことですが」
「ああ、今から行くか?」
「いいえ? もちろん、お断りさせていただきます。初めに言った通り、メニューに記載をさせていただいていますから」
アリアの言葉を聞き、クレーマーは苛立ったように舌打ちをする。
「俺はぁ、お客様なんですけどぉ?」
「いいえ?」
「は?」
厭味ったらしく自分を客だという男に、アリアは優しく微笑んでそれを否定する。
「ここは名前の通り、食事をして幸せになってもらう場所です。それを壊そうとする方は、お客様ではありませんから」
「……いい度胸だな、このあま」
「私は料理人です。この場所を守る義務がありますし、それを壊そうとする相手に屈するようなことはありません」
背筋をピンと伸ばし、静かに告げたアリアに、クレーマーは息を呑む。
どこか空気が重く、居心地が悪い。
それを作り上げているのが目の前にいる女――アリアだということに、クレーマーはひどく嫌な気分にさせられる。
たかが利用されるだけの女が、なぜ客である自分に歯向かってくるのか。
そう思ってから、男の行動は早かった。気付いたときには、アリア目掛けてその拳を振り上げていた。
ビビレ! と、男は思っただろう。けれど、アリアは自分目掛けて振り下ろされている拳を瞬きせずに見つめ、あまつさえ笑みを深める。
「クソッ」
「シャル――っ!?」
ダァンッ!!
大きな音が店内に響き、クレーマーの男が背中から床に転がった。いったい何が起きたのだと、店内にいる全員が目を瞬かせる。
そしてその原因に気付き、今度は大きく目を見開くのだ。
クレーマーの男の拳を止め、床に叩きつけたのは小柄な給仕の少女――シャルルだった。まさかこんな少女が!? と、誰もが驚いている。
そしてアリアはというと、別の意味で息を呑み目を見開いていた。
「あ……っ、り、りんと、さん?」
アリアは、背後からリントに抱きしめられていた。
男の攻撃から守るため、リントが咄嗟にアリアを引き寄せたのだ。そのままリントの腕の中に納まって、今に至る。
顔を赤くしてアリアが振り向くと、リントが慌ててその手を離す。
「す、すまない! 咄嗟に手が出てしまったようだ。シャルルさんがいたから、無用の心配だったな」
「いえ! ありがとうございます、助かりました」
先ほど男と対峙した時よりも恥ずかしくて、アリアはどこかに逃げ込んでしまいたい気持ちになる。
けれど、気絶したクレーマーの男を放置してどこかに行くわけにもいかない。
シャルルが「邪魔ですね」と言って店の外に引きずっていってくれたので、兵士に連絡して引き取りに来てもらうのがいいだろう。
アリアは店内をぐるりと見回して、頭を下げる。
「お騒がせしてしまって、申し訳ありません。このお詫びは――」
「そんなの必要ないぞ、アリアちゃん! 格好良かったぞ!」
「前のときも思ったけど、よく怖い男に立ち向かっていけるよね。私、スカッとしちゃったわ!」
店内で食事をしていたほかの方を怖がらせてしまったので、何かお詫びをしなければ……と思ったのだが、客の全員がそれをいらないと言ってアリアとシャルルを褒めたたえる。
「そこの仏頂面の兄ちゃんも、アリアちゃんを助けようとしてくれて格好良かったぞ!」
「ヒューヒュー」
今度はお客さんの声がリントに向けられて、その眉間に皺がよる。あまり人との交流に慣れていないからか、嫌そうだ。
しかしそれよりも、リントには気になることが一つあった。
「アリアさん、前のときとは? クレームは、今回が初めてじゃないのか?」
「あー、私がこのお店に来た初日にもあったんですよね。なので、そのときのことを言っているんだと思います」
「……無茶をするな、心配になる」
とりあえず無事でよかったと、リントがアリアの頭をポンと軽く撫でる。そのままローレンツの方へ向いて、行くぞと手でドアの方向を示す。
「……アリアさん。シャルルさんが外に転がした男は、俺たちが兵士に渡しておく。何かあれば俺に言ってくれ」
「え、あ、はい……っ」
そう言い、リントはローレンツに男を引きずるよう指示を出している。
思わず頷いてしまったアリアだったが、店のことを部外者であるリントたちに任せてしまっていいのかと慌てるが、「問題ありません」とローレンツにも言われてしまう。
アリアはシャルルと一緒に、リント、ローレンツの後に続いて店の外に出る。まだ気絶している男の腕をローレンツが掴む。
「じゃあ……すみませんが、お願いします」
「はい。承りました」
「またな」
アリアが改めてお願いすると、ローレンツが頷いて男を引きずり始めた。その後に、リントも別れの挨拶をしてローレンツの後を歩いて行く。
本当に引きずっていくんだ……と、アリアはシャルルとリントたちが見えなくなるまで見送った。