はじまりと終わりをつなぐ週末
透明人間
朝から降り続いている雨が、頭上に広がる水色の傘にポツポツとリズムよく当たる。南門を出て右を向いた私は、そのまま学校の低い塀に沿って歩道を歩き出した。
雨は朝よりも幾分か大人しくなったけれど、ガードレールや地面に弾かれた雨が時折素足を濡らす。水はけがあまりよくない歩道を歩くたびに、ローファーの中まで雨が染み込んでくるのが少し不快だ。
でも、雨は嫌いじゃない。こうして傘を差しているだけで、簡単かつ自然に周囲の目から逃れることが出来る。
買ったばかりのなんの飾り気もないシンプルな傘が、自分一人だけの空間を作り出してくれるから。
柄の部分を両手で強く持ち、周りを歩く生徒から顔が見えないようにと傘を低い位置で差した。
前を歩く紺色のズボンから少しだけ視線を上げると、白いシャツが見えた。その背中を追うように、けれど近づき過ぎずちょうどいい距離を保ちながらゆっくりと足を進める。
私が通っている高校には南と東の二箇所に門がある。一応南門が正門ということになっているけれど、自転車置き場は東門にあるし、駅から近いのも東門だ。そのため、私を含め基本的に東門を使ってい生徒の方が多い。
でも私は今日、南門から出て駅とは反対方向に向っている。そうしなければいけない理由があるからだ。
学校を通り過ぎたところで、前を歩く井上(いのうえ)くんの足が止まった。確認しようと傘をうしろに少し傾けて前の視界を広げると、タイミングが良いのか悪いのか、井上くんがこちらを振り返る。信号は赤になっていた。
「大丈夫?」
なにが? と思ったけど、そうやって気軽に突っ込めるほどの関係ではないため、私は声を出さずに頷いた。