結婚しても恋をする
平穏を取り戻したかのように思われた翌週の木曜日、夫婦揃ってマンションギャラリーへ足を運んだ。
「……では、設計変更の相談会はこれで希望を出しておきますね」
打合せは滞りなく終了かと思われた時、担当の樫木《かしき》さんが書類を揃えながら続けた。
「先日ご連絡したローンの審査ですが……現時点では通りましたが、引渡しの少し前に確定となります。仕事に勤めて貰っていれば問題はないと思いますが」
「えっ……仕事……ですか? えっと、それは辞めたら……」
「……ちょっと待って下さい。辞めないですよね??」
いつもへらへら笑っている樫木さんの笑顔が、何となしに怖い。
「……辞めるって言いました……」
「そういうことは、事前に相談して下さい……!!」
「……要は、ローンが通らないってことですか……?」
「大丈夫です。ご主人ひとりで組めるローンも……」
片手で頭を抱えながらも、もう一方の掌はこちらへ向け広げられ、宥める仕草を見せる。
しかし直ぐに思い至ると、前の人の言葉を遮り質問を投げた。
「えっえっ、でもそれって、月々相当変わってくるんじゃないですか……?」
すぐさま計算を出して貰い、その金額に青ざめた。
書き直す審査の書類を樫木さんが取りに行っている間、郷ちゃんと顔を見合わせると、声を潜めて今後の対策を練る。
「いや、5000円変わるって……ないでしょ。今の部屋より大分上がってくるよ……キツくない!?」
「……で、どうするの」