結婚しても恋をする

「藤倉さーん! 助けて~」
「はい? 何ですか?」

終業が近付く忙しない夕刻、リーダーでありながら事あるごとにわたしを頼って来る、同期の水川《みずかわ》さんと、契約社員の只野《ただの》さんが連なって駆け寄って来た。
水川さんはわたしより随分年上であるが、今日も落ち着きなく突き付けるように目の前にプリントを提示して来るので、一歩後退る。

「この公団の文言って、変更になった話だったっけ」
「……変更じゃなくて、削除する話になったんですよ。この間も言ったと思うんですが……」

「そうなんですか! 知らなかった」

後輩の只野さんが初耳なのはともかく、水川さんが何度も同じ内容を聞いてくるのにもすっかり慣れてしまった。
やれやれと肩を竦めつつ席へ戻り、ディスプレイに開いていたファイルへ向き直った。
不意に画面の右下に、メールの受信を知らせるポップアップが浮かび上がる。

表示された珍しい名前に、ゆっくりと瞬きする。

< 18 / 89 >

この作品をシェア

pagetop