結婚しても恋をする
腹痛が酷くなって来た気がする。
近頃のささくれ立った気持ちを入れ替えようと、花金に軽い息抜きのつもりだった。
逆に不安を煽られただけの結果を肩に重く伸し掛からせたまま、腹部を摩りつつ賃貸アパートの玄関を潜る。
今日も声を荒らげてしまうのだろうかと、自らへの疑念を募らせて。
靴を脱ぐが早いか、廊下を踏み締めるといきなり背後から、帰りを待っていたらしい人が体重を掛けへばり付いて来た。
「おかえり。楽しかった? 占い」
「……ただいま。面白かったよ……」
土産話を展開させるつもりが、目線の先のダイニングテーブルに、帰宅時に調達して来たのであろう牛丼の食い散らかした痕と、飛び散った七味の赤い粉が過ぎった。
考えるよりも先に、金切り声が口から飛び出してしまう。
「ちょっと、食べたまま放置しないでって、言ってるよね!? 粉、飛んでるし!」
「あ、すいません……」
旦那を放って占いと飲み会を楽しんで来た己は棚に上げ、衝動的に捲し立てていた。
ぶら下がる人を引き剥がし、洗面台で手を濯ぎ戻って来ると、テーブルを拭こうと彼が手にしている布地に違和感を持つ。
「そーだ灯梨《あかり》、マンションのローンの審査通ったって連絡あって……」
「それ、食器拭きでしょ!? 台拭きじゃない!」
「……え、そうだっけ……」
歪めた表情で話を遮り、焦って止めに入った。
特に動じることも無く薄笑いを浮かべた旦那に、堪らず衝動的に叫び出していた。
「あ~っ! 何回言ったらわかんのっ! 注意しないといけないのが嫌だから、間違えないでっ!!」