結婚しても恋をする
『何かあれば、私に相談して貰えれば力になりますので、早急な決断はしない事。
まずは、体調を整える事。』
再び定型の挨拶文で締められたそのメールは、暫く動けない程の衝撃をもたらした。
鳴り響く電話のコール音やチャイムの音が遠のいて行く。
眉間を寄せ唇を結んだ自分の顔が、赤く染まっているだろうことが容易に想像が付き、左手で口元を覆う。
歪めた瞼から涙が零れ落ちないように、気を配った。
弱った心を鷲掴みにするには、充分だった。
そろそろ書類を片付けなければと漸く我に返り立ち上がると、いざなわれるように宮内課長を目が追い掛ける。
十数メートル先、わたしに気付いた人と視線が絡むと、その唇が薄く弧を描いた。
熱く響き続けていた胸元が、更に音量を上げる。
課長が去って行ってしまっても、ひとしきり立ち尽くしていた。
旦那の大切さを再認識しただなんて、勘違いだったのか。
まさか本当に好きな人が出来るなんて、信じられなかった。
わたし、結婚しているのに。