結婚しても恋をする
土曜日の昼下がり、駅前のモールへ車で出向いた。
精算機から駐車券を取るなり、すかさず助手席から右手を差し出しそれを預かる。車の中に置いてきてしまうからだ。
「あっ、すご落ちスポンジ。これも買っとこ」
生活雑貨の格安大型店であれこれと買い込んだ後、映画館へ向かった。
公開から随分過ぎた郊外の劇場では、開場が案内されても人は疎らだ。
郷ちゃんには引き換えたチケットを直前に手渡し、入場してから映画鑑賞の必需品を忘れていると気付いた。
「しまった、飲み物持って来るの忘れた」
「ほんとだ。買いに行く?」
この人の辞書に“準備万端”という言葉はない……。
わたしが思い出さなければ、忘れたままなのかもしれない。
「再入場には、半券を提示して下さい」
僅かに心を漂い始めた翳りに感付かない振りをして、女性スタッフにゲートを通してもらうと軽食の販売カウンターへ並んだ。
程なくして再入場するべく戻ると、前の人が怪しげな動きを見せる。
「……あれ?」
「……なに」
まごついてポケットを探る仕草に、嫌な予感を募らせて訝しく見上げる。
まさかと過ぎらせた読みを、嫌がらせの如く的中させた。
「チケットない」