結婚しても恋をする
「既婚者に誘われたというか。そういうのはある」
「それ……行ったの? ご飯とか」

興味を駆り立てられ続きを伺うと、愛想の良さそうな顔から毅然たる台詞が返る。

「行ってない。良い? 灯梨。こっちからは行かないことだよ。うまーく躱して、使っとくのよ、そういう人は」
「………そうだね……」

目線を外した彼女が続ける。

「……旦那が子どもみたいで、体重掛けてでも寄り掛かりたいけど倒れちゃうから、何か寄り掛からせてくれそうな存在に惹かれちゃったのかな。子ども作っても子どもがふたりになるだけだろうし」
「……どうしてそんなに、わたしのことが解るの?」

目を丸くしているわたしとは対照的に、千雪は大きな瞳を優しく細めてくれた。
暫しお椀の中のつみれや野菜を見つめ、口に出す。

「……不倫したら軽蔑するって言って」
「軽蔑する」

即座に続けた璃海の、強い意志を感じ取った。

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