結婚しても恋をする
友達が居てくれて、本当に良かった。
こんなわたしでも皆ずっと仲良くしてくれており、余りの居心地良さに、ぎりぎりまで入り浸ってしまった。
どうにか終電で部屋の前へ辿り着き、なんて不良妻だと脳内で自嘲する。
「ただいまー……」
もう部屋の灯りは落とされていたが、一当たり帰りを告げて玄関脇の寝室へ踏み入ると、布団の中から寝惚けた掠れ声が僅かに聞こえた。
「……おかえりー……楽しかった……?」
「楽しかったよ。ごめんね、遅くなって」
「いーよー……」
慣れた口調で呟いたかと思うと、再び眠りに入った。
ベッドの淵に腰掛け寝癖の付いた髪を眺めると、薄々感付いていた本音が浮かんで来た。
──帰りたくなかったんだな、わたし。
郷ちゃんの居るこの家に。
注文していた評判の良い“イライラしなくなる本”が届いていたので、静まった部屋の中、パラパラと捲った。
興味を引かれた部分に目を通してみたが、根拠がよくわからず腑に落ちなかった。
わだかまりが残っただけで、読み込む元気は沸かずに本を閉じる。
遅めの日曜の朝を迎えると、郷ちゃんが何やらスマートフォンを弄り始めるが早いか、すぐに疑問を口に出した。
「電源付かなくなった。直し方知らない?」
「……説明書読んだの?」
「読んでない」
わたしのスマホはOSが違うので、当然何も解らない。
いつもそうなのだ。自力で何とかする前に、わたしを頼って来る。
ダイニングチェアにもたれ紅茶のカップを持つ右腕を左手で抱えて、組んだ足先はぶらぶらと揺れている。
無意識に貧乏揺すりをしている身体にたじろいで、苛立ち始めた心を察した。