結婚しても恋をする

わたしは努力しているつもりだけれど、この人は困っていないから何も変わらない。

思い至って初めて理解した。
鬱積したストレスが限界を迎えたことを。

「あ、お茶がないよ」

思い出したように平然と報告する姿に追い打ちを掛けられ、急激に感情が沸く。
右腕を支える左手に力が篭ると、塞き止めようとした怒りが溢れる寸前、抑えずに解放したい衝動を覚えた。

「なかったら沸かしてって、ずっと言ってるよね!? それ、わたしに許可取る必要ある!? ないよね!?」

途端口から飛び出た言葉の勢いに我ながら気圧されるが、続けざまに捲し掛けていた。
お互いに目を見開き、その場を動けずに居た。

「……ごめん」

謝罪を述べられたが、やはり一言呟いたきり黙っている。
この人は同い年だったはずで、わたしはいつから郷ちゃんのお母さんになってしまったのか?

「電源付かないとかさぁっ、知るかっ!! なんでそういうの全部わたしが答えなきゃなんないの、お義母さんに聞いて貰える!?」
「そんなの、わざわざ電話して聞くことじゃないだろ」

「はぁーっ!? じゃあ、わたしにも聞かないでくれるっ!?」
「だって此処に居るのに」

脳裏を過ぎった考えが悲しく、歯を食い縛り痛む胸元を抑えるが、責める罵声は止められなかった。

「お義母さんには気遣うけど、わたしには気遣わないで良いってことなんだ、そうなんだぁ! 負担をわたしだけに集中させないでくれないかなぁっ!!」

言い切って肩を揺らすと、力が抜けてふらふらと畳の上にへたり込んだ。

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