結婚しても恋をする
……また、やってしまった。
畳の目が歪み視界がぼやけて、固く噤んだ唇が震える。
こんなことを言ってしまうわたしが悪いんだ。
きつく閉じた瞼から溢れ続ける涙もそのままに、ただ肩を震わせるしか出来なかった。
「……灯梨……」
いつの間にか側に立った郷ちゃんが、腰を下ろした。
その顔は確かめることが出来ずに、か細い声を絞り出す。
「……もしもわたしが、判断出来なくて、決められなくて、頼りなくて、何も出来ないような子でも、結婚した……?」
戦慄くわたしの握り拳を余所に、隣の人は即答した。
「うん」
焦点の定まらない目線を上げると、眼前の真顔が続ける。
「俺が決めても良いんだけど、そういうの苦手だから、あんまり良いのが選べないかも知れないから」
「…………選んで……」
心の声が零れ、縋るように彼の胸元に迫り見上げた。
「郷ちゃんが、選んで、何処か、連れて行って……」
「…………今度のデート?」
頷くと、頭上の人はやや難しそうな表情をしたが、真摯に答えてくれた。
「わかった。頑張る」
幾らか肩の荷が下りたようで、胸に安堵感が広がると同時に、申し訳なさも込み上げてきた。
「上手く優しく出来なくて、ごめん…………」
俯き顔を抱えると、彼はやっぱり柔らかく頭を撫でてくれた。