結婚しても恋をする

時間の経過によって幾らか平穏を取り戻した週の中頃。
昼休み、御手洗から戻り入室すると、何処となく視線を感じ振り返った。

立っている人物に、思わずびくりと肩を震わせ胸が鳴る。
どういうわけか宮内課長がわたしを見つめていた。

「……」

何か用事かと様子を伺っていたが口を開く素振りはなく、整った目元から送られる眼差しに耐え兼ねて、挨拶を口にする。

「お疲れ様です……」

頷いたかと思えば、薄く笑って去って行ってしまった。


疑問が残るまま業務は終了し、コンクリートを踏み締める足元を眺めながら頭を巡らせていた。
不倫するだとか宣告されたものの、わたしが一方的に好意を抱いているだけで特に何もない。
そういえば占い師に“遊びの恋”と告げられたことを思い起こす。

遊びの恋とは、どういうことだろうか……。
よく聞くフレーズだが、改めて考えたことなどなかった。自分には無縁だと思っていたからだ。

少しは星の見える宵の空を仰ぎ、将来を考えない刹那的な関係だろうかと思い至った。
例えばもしも今、お互いに独身だったとして、宮内課長と結婚するだろうか?

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