結婚しても恋をする

……しないなと、瞼を伏せる。
これから結婚をするのなら、それに伴うライフイベントも全てこれからになるのだ。
家を買いローンを組んで、子どもを産み育てて……といった結婚生活を、50目前のおじさんと熟して行くなんて、正直なところ考えられなかった。
若くて体力があり働き盛りだということは、それだけで結婚の条件となる……。

ICカードを取り出し改札を抜けると同時に、解ってしまった。

“遊びの恋愛”とは“一緒になる気がない人との恋愛”
課長がわたしの若さに惹かれたとして、なんだ?
わたしだって、大人の落ち着きに惹かれたに過ぎない。

振動するスマホを取り出すと、郷ちゃんからのメッセージが画面に浮かぶ。
帰宅時間を知らせる内容に、目を通した。

──それは、パートナーにないものを持っていたということ。
同時にそれは、選ばなかったもの。

大人の知性や落ち着きを選ばずに、若さや元気さや親しみやすさを選んだ。
言い換えると“本命の条件”であり、わたしにとっても“遊び”だということだ。

繋がってしまうと、急速に白けて行く気持ちを感じ取り、嘆息を吐いた。

わたしは郷ちゃんと別れるつもりは、毛頭ないのだ。

< 40 / 89 >

この作品をシェア

pagetop