結婚しても恋をする
「あは、迂闊だったかなー。でも、目が合うけどそれだけだよ。お互いに気付いてるけど、何もしない。それで良いのかなって。千雪の忠告通り、こっちからは行かないよ」
少し考える素振りを見せた後、彼女が答えた。
「……あるんじゃないかな、他の人にときめいたりとか、それくらいは。何もないなら全然良いと思う」
その言葉はゆっくりと心に沁み渡るようで、幾らか胸のつかえが下りたように思えた。
「てかさー聞いてよ! うちの旦那なんかこないだ、深夜に泥酔して電話して来たと思ったらいきなり『今から会社の人連れて帰って良いー?』って。電車ないのに駄目とも言えないじゃん!」
「うわー、それはきついなー。来たの? 会社の人」
「来たよ! しかも家で飲み直し始めるんだよ! 私だけ寝る訳にも行かないし……」
笑って共感を示しつつも、うちでは絶対にあり得ないエピソードだと他人事に感じていた。
彼は酒はほとんど飲めず、親しい人も居ないからだ。