結婚しても恋をする

かく言うわたしも似たようなものだけれど。
家庭も仕事も上手く回らないなら、迷わず仕事を捨てる。


「十川さん、短い間でしたがお世話になりました。わたしもすぐ追い掛けます」

彼の側まで寄り頭を下げると、ごくごく自然な調子で繰り広げられる。

「藤倉《ふじくら》さんも辞めたい言ってるってのは聞いてたけど、人との繋がり大事にして頑張って。今日も挨拶して回ってたら連絡先くれる人とか結構いて」

耳を傾けていると、おもむろに付箋にペンを走らせ、差し出された。
記されているのは、090から始まるナンバー。

「転職のことで何かアドバイス出来るかもしれないし、気軽に相談してくれたら」

……いや、番号は要らないけど。

引き攣らせた心が表情に出てしまいやしないか不安ながら、受け取らないわけにもいかず手を伸ばした。

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