そしてあなたと風になる
千尋とまひるは、三日後、イギリスの小高い丘の上に立っていた。
空には、数年ぶりのスーパムーン。銀色に輝く月が、二人を明るく照らしていた。
千尋は、秘書の三月に仕事を調整してもらい、まひると共にイギリスにいるまひるの母親と祖父母を訪ねた。
まひると気持ちが通じてからの千尋の行動は早かった。
その夜には、両親と二人の兄、百花にまひるを婚約者として紹介した。
そして三日後には、まひるのイギリス旅行に同行し、家族に挨拶まで済ませてしまったのである。
まひるの母親も祖父母も、一人ぼっちになったまひるを心配していたので、千尋の存在を歓迎してくれた。
櫻木家にいたっては、長兄が会社を継ぐことになっていたので、千尋の婚約を手放しに喜んでくれた。
婚約相手が、今をときめくデザイナー"まひる"で、クレセントシリーズを成功に導いた立役者であればなおさらである。
百花と雅樹が二人の恋に干渉しなければ、こうしてまひると一緒にいる未来はいつまでも実現できずにいたかもしれない。
千尋は海の向こうにいる妹と友人に感謝した。
「千尋さん。」
繋いだ手を引き寄せて、まひるが千尋を愛おしそうに見上げた。
「あの日、私が寝坊して父のバイクに乗らなければ、ちいちゃんに会うことも、ちいちゃんを抱く千尋さんに恋することもなかったと思います。」
日本よりも少し冷たい風が心地よい。
「千尋さんと三月さんに会うことは決まっていたけど、私が好きになったのは、子猫を抱く優しそうな千尋さんだったから。」
確かに、無愛想で無口な千尋よりも、フェミニストな三月の方が感じがいいはずた。
「ちいちゃんになりたい、って本気で焼きもちやいてたんですよ。」
千尋は、そんなまひるが可愛くて
そっと頭部を引き寄せてキスをする。
「俺はまひるが人間の女の子で良かったよ。」
「こうして抱き合うことが出来るから」
何にも期待せず、誰にも甘えられなかったまひるが唯一求めた存在。
千尋は、まひるの想いをまっすぐに受け止めてくれる。
公園の木々を揺らす涼しい風が二人の距離を縮めた。
昔、一緒にイギリスを訪れた父がまひるに言ったことがある。
『バイクで風を切って走っていると、見えない何かに導かれている気がしてくる。迷ったら風に乗って、まひるも感じたままに生きたらいい。』
空に浮かぶ月が、父の笑顔を運んできた気がする。
「お父さんの形見のバイクに感謝だな。」
「千尋さん、今度、私とタンデムしてくださいね。」
千尋が首を振った。
「俺が後ろなんてやだ。免許取る。」
「そして、まひるを後ろに乗せるよ。お父さんのバイクのね。」
「風を感じてどこまでも行きましょうね。」
ーそしてあなたと風になるー
空には、数年ぶりのスーパムーン。銀色に輝く月が、二人を明るく照らしていた。
千尋は、秘書の三月に仕事を調整してもらい、まひると共にイギリスにいるまひるの母親と祖父母を訪ねた。
まひると気持ちが通じてからの千尋の行動は早かった。
その夜には、両親と二人の兄、百花にまひるを婚約者として紹介した。
そして三日後には、まひるのイギリス旅行に同行し、家族に挨拶まで済ませてしまったのである。
まひるの母親も祖父母も、一人ぼっちになったまひるを心配していたので、千尋の存在を歓迎してくれた。
櫻木家にいたっては、長兄が会社を継ぐことになっていたので、千尋の婚約を手放しに喜んでくれた。
婚約相手が、今をときめくデザイナー"まひる"で、クレセントシリーズを成功に導いた立役者であればなおさらである。
百花と雅樹が二人の恋に干渉しなければ、こうしてまひると一緒にいる未来はいつまでも実現できずにいたかもしれない。
千尋は海の向こうにいる妹と友人に感謝した。
「千尋さん。」
繋いだ手を引き寄せて、まひるが千尋を愛おしそうに見上げた。
「あの日、私が寝坊して父のバイクに乗らなければ、ちいちゃんに会うことも、ちいちゃんを抱く千尋さんに恋することもなかったと思います。」
日本よりも少し冷たい風が心地よい。
「千尋さんと三月さんに会うことは決まっていたけど、私が好きになったのは、子猫を抱く優しそうな千尋さんだったから。」
確かに、無愛想で無口な千尋よりも、フェミニストな三月の方が感じがいいはずた。
「ちいちゃんになりたい、って本気で焼きもちやいてたんですよ。」
千尋は、そんなまひるが可愛くて
そっと頭部を引き寄せてキスをする。
「俺はまひるが人間の女の子で良かったよ。」
「こうして抱き合うことが出来るから」
何にも期待せず、誰にも甘えられなかったまひるが唯一求めた存在。
千尋は、まひるの想いをまっすぐに受け止めてくれる。
公園の木々を揺らす涼しい風が二人の距離を縮めた。
昔、一緒にイギリスを訪れた父がまひるに言ったことがある。
『バイクで風を切って走っていると、見えない何かに導かれている気がしてくる。迷ったら風に乗って、まひるも感じたままに生きたらいい。』
空に浮かぶ月が、父の笑顔を運んできた気がする。
「お父さんの形見のバイクに感謝だな。」
「千尋さん、今度、私とタンデムしてくださいね。」
千尋が首を振った。
「俺が後ろなんてやだ。免許取る。」
「そして、まひるを後ろに乗せるよ。お父さんのバイクのね。」
「風を感じてどこまでも行きましょうね。」
ーそしてあなたと風になるー