そしてあなたと風になる
橘は、まひると晴斗に企画書案と予算案、契約内容について説明した。

櫻木コーポレーションは、アパレルの他、コスメ、ジュエリー、インテリア雑貨、文具などの製品開発・販売を幅広く手掛ける日本でも有数の企業だ。

今回は、百花がプロジェクトリーダーとして展開していく予定のコスメシリーズ:クレセントのコマーシャル展開に関する依頼であった。

諏崎デザイン工房のデザイナーは世界中で人気があり、作品制作を依頼することは非常に困難とされている。

先代社長:勇造が健在の頃は、社長自ら仕事の受注と振り分けを行っていたが、今は晴斗に一任されている。

デザイナー個人が仕事を請け負うことは絶対にない。

だから、櫻木コーポレーションのように、晴斗に直接アクセスできる強いコネクションを持っていることは、非常に運がよく、逃したくないチャンスなのである。

とくに、デザイナー"まひる"、は、業界では10年前から"素性の明かされない、謎めいた異才"として注目されてきた。

実際は、諏崎デザイン工房の社長の娘で、バイトとして、気まぐれに勇造社長が振り分けてくる仕事をこなす女学生だったのだが。

マイペースな性格で、他人に流されないまひるは、決して自分から目立とうとはしない。

いや、諏崎デザイン工房のデザイナーはみんなそうだ。

だから素性が分かりにくいデザイナーが複数存在している。

『デザイナー"まひる"が、こんなおっとりしてマイペースな女性だったなんて,,,。』

プレゼンを続ける橘の横で、まひるから目をそらせない櫻木はそんなことを考えていた。

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「多少修正する箇所はありますが、契約としては概ねこれで問題ないでしょう。デザインに関する内容の話し合いについては、まひるさんに任せるよ。」

「それでいい?」

橘のプレゼンを聞き、書類に目を通した晴斗が言うと、まひるは笑顔で頷いた。

「事務的なことは私と晴斗さんで、デザインについてはまひるさんと百花さん、サポートで櫻木専務が対応する!という事でよろしいですか?」

橘の申し出に全員が頷く。

契約は明日、櫻木コーポレーションビルにまひるが赴いた際に、百花のプレゼンに納得してから締結する流れとなった。
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