恋をしようよ
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ナツの名詞をずっと眺めていた。

そこにあるメールアドレスの一つ一つを指でなぞる。
.comで終わるそのアドレスは、明らかに社用のメアドで、どんな文面を送ればいいのか戸惑っていた。

俺の方には、何も連絡はないのだから、きっと気がないのは明らかだ。


片思い?

そういえば、こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。
いつだって、俺に気のある女子にだけしか、相手にしていなかったから。


手元にあった芋焼酎のロックを傾けながら、隣に居た役に立ちそうもないやつに思わず独り言のように呟いていた。


「なあ、ビジネスメールってどんな風に出すんだ?」


「そんなこと俺にわかるわけないじゃん。」

大野に鼻で笑われる。


「さっちゃんならわかるかもよ。」


そう言って奥さんに電話してくれるから、大野もたまには役に立つんだなって思う。


「ネットでビジネスメールって検索すれば、いくらでも出てくるんじゃないかって言ってるよ。」


「そっかありがと、やってみるわ。」


携帯でポチポチ検索しながら、しばらく真剣にそれを調べていたから、大野は勝手にその店の大将と適当な雑談を始めていた。


「カズ君、何やってんの。ナンパメール以外にもそういうのやるんだ。」

一通りメールし終わった頃、頃合を見て大将がそう突っ込んでくるから、まあねなんて適当にごまかしてしまった。




こういうメールだから返事は遅いだろうと思ったのに、意外にもすぐに返事は返ってくる。

かしこまった文章で、まるでランチミーティングでも誘うかのようなそれに、ナツはいつでもいいですよなんて軽い文章で返してくれた。

メールの文末には、プライベートのアドレスも載っていて、やっと気軽にメールできるなと思う。





早速、新しくゲットしたアドレスに、誘おうと思っていた店と待ち合わせ時間などをある程度決めて送り返す。




”楽しみにしていますね。”


そのささいなメッセージが、今の俺にとってはひどく安心させてくれるものだった。



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