恋をしようよ
約束の時間丁度にナツはやってきた。

思ったとおりのいつもの格好で、やっぱ着替えてもらわないとなってうちの離れに通すと、やたら周りをキョロキョロ見ながら、緊張した面持ちで俺の後ろをついてきてくれる。

「す、凄いですね・・・日本庭園って感じ・・・」

庭には季節の花がいつも咲きほこっていて、池の水面には蓮の花が咲いていた。


「ちょっとここで待ってて。」

俺は着物一式を持ってきてあげて、ここで着替えて欲しいとお願いしてから離れの外で待つことにした。




「カズヤさん、ちょっとすいません・・・」

15分ほどしてから、ナツに声をかけられたので戻ってみてみると、帯が締められないと言う。
仕方ないので、帯を簡単にぶんこに締めてあげる。

細い腰周りに、帯があまりそうで、きつく締めてしまうと折れそうだ。


「ああ、こんなんでよかったんですね、すいません手を煩わせてしまって。」

ナツはいつものごとく、恐縮して謝るけど、帯以外はきちんと着付けられていたので、たまには着てるのかなって思った。

「ちゃんと着れてるじゃん、いつも着てたの?」

そんな風に聞くと、母方の実家がお寺なので着る事が多かったと教えてくれた。

「だから、生け花とか習わされていたんです。でも好きだったからよかったんですけど・・・」

仏教と華道は切っても切り離せない関係のものだ。
庭に咲く蓮の花を見ながら、ナツはもしかしたら、うちの家風にもなじむのかもしれないなと、ぼんやりと思った。





華道教室の部屋に通すと、先に蓮と桃が二人で待っていてくれて、いつものように2人も着物に着替えていた。

「カズおじさん、遅いよ。もうはじめちゃうよ。」

ゴメンゴメンって謝りながら、みんなで一礼すると、早速自由に生けてみてとナツに言いながら、自分の生け花にも取り掛かった。



ナツは手馴れたように、上手に花を生けてゆく。
背筋をピンと伸ばして、一身に集中して。
そんな姿が何かとかぶって、デジャブを見ているような気がした。

隣で生ける桃の姿を見て、ああそうだと思い出した。姉ちゃんのスタイルに似ているんだ・・・



「お姉さん上手だね~」

蓮はあんまり生け花には興味がないくせに、桃に付き合っていつも習いに来ている。
いつも途中で適当にやりだすから注意するんだけど、まだ小学生には集中できないみたいで無駄話を始める。

「そんなことないよ、久しぶりだからなかなか感が思い出せなくて・・・」

蓮が無邪気に話すから、つられてナツもリラックスして答えていた。


「ほら蓮、まだ途中だろ?」

俺は自分の花を手早く生けた後、蓮と桃の手直しをすべくみてやる。

桃は小学生ながらやっぱり姉ちゃんの血をひいてるのか、もうほぼ完璧に生けられるけど、蓮はまだまだだ。
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