恋をしようよ
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「男の子でも泣くの?」

小さな女の子が、俺の顔を覗き込んでそう声をかけた。

祖母の葬儀の最中、ばあちゃんっ子だった俺は、人前で泣くのが恥ずかしくてその寺の裏に咲く蓮の池の前でしゃがみこんで涙を拭いていたんだ。

「お前どこの子だよ。」

まだ小学校に入る前位のツインテールのその少女は、親戚では見かけない子だったけれども、きちんと黒のワンピースとエナメルの靴を身に付けていたので、この葬儀の参列者の誰かの子だということはわかった。

「うちのお兄ちゃんはね、お父さんに男の子は泣いちゃだめだって言われてたよ。」

あどけない笑顔で言うけれども

「大事な人が死んじゃったときは、誰でも泣いていいんだよ。そんなことも知らないのかよ。」

俺は強がって、そんなふうにしか返せなかった。


大好きな祖母は、晩年鎌倉の別宅で祖父とひっそりと暮らしていた。
年に数回、大好きな祖母に会いに鎌倉を訪れては、いつもたくさん色々な事を教わっていたっけ。

厳格な父からは、いつも厳しく躾られていたから、この地域はシェルターのような場所だった。
どんな事があっても、思いきり甘えさせてくれて、俺の味方になってくれた祖母から、生け花の楽しさも教えてもらったんだ。


そんな祖母が亡くなってしまったのだから、まだ中学生の俺は気持ちの整理がつかなかった。



「おばあちゃん死んじゃったね。」

女の子はそう続けて俺の隣に一緒にしゃがみこむ。

「お父さんが言ってたの、死んじゃったあともおばあちゃんはまた戻ってくるんだよって。だからおにいちゃんも泣かないで。」

輪廻転生、そんなことをこんな小さな子に教えられるなんて・・・

ずっと俯いてばかりの俺の顔を、ずっと覗き込んでは、その子はにっこり笑って慰めてくれたんだ。




「なおちゃーん、どこー?」

遠くでその子を呼ぶ声が聞こえて、「はーい!」と元気よく答えた後、俺にバイバイをしてその子はかけていってしまった。







いったいあれはなんだったんだろうか?

いつまでも覚えている・・・


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