恋をしようよ
駅の改札を出て、海岸線を歩く。

もう離したくないと握り締めたナツの手をひきながら。

蓮と桃は、2人で海岸を走りながら、俺たちと微妙な距離を置いてはしゃぎながらじゃれあっていた。


「ごめん、何か予定あった?」

「いえべつに、ただ暇なんで散歩していただけなので・・・」


SNSを見て探してきたんだなんてことは、なんだか恥ずかしくて言えなくて、ちょっと墓参りのついでになんて理由をつけてきたんだと言い訳がましい説明をしてしまう。


「私の実家、すぐそこなんですよ。」

指差す方向は、俺たちが来た方向だったりしたので、もしかしたらと思いたずねると、車を止めてもらった例の寺がナツの母方の実家だと知ってびっくりした。実家もそこのすぐ数軒先らしい。


「おじいちゃんちのお寺で、お花習ってたんですよ。」

そんな風に昔話をなんとなくしながら、ずっと海岸線の海の向こうを眺めていた。
日差しは容赦なく照りつけるけれども、海風が頬をなでてなんともいえない心地よさが胸をよぎぎる。

そういえば、好きな女の子とこうして海にくるなんて、久しぶりかもしれない。



「なんで連絡くれなかったの?」

思い切って一番気になっていることを聞いてみると、
「カズヤさんだって、連絡くれなかったじゃないですか。」
なんて返されるから、連絡するって言ったのはそっちだろうってわざと笑って答えた。

「待っててくれたんですか、ずっと?」

俺の顔を覗き込んで聞いてくる彼女が、あの女の子の顔とダブって、何だかデジャブをみている気持ちになる。

「半月も何も無しで待ってるなんて、初めてかもな。」

高校に入ってまともな彼女っぽい子ができてから、そういえば三日と空けず女の子が途切れた事がなかった。

なんでクラヴにも来なくなったのって聞くと、ツイッターにもチラッと書いてあった夏フェスの仕事でずっとひたちなかに行っていたらしい。

「ホントここ数年、フェスが増えて仕事がはんぱ無いんですよ。やっと夏休みもらえて実家に来たんですけど・・・」

そこで俺という選択肢はなかったんだなと思うと、ちょっとしょげる。

「久地さんも寂しがってたぞ、ナツが来ないって。」

そうなんですかなんて、あっさりとその話題を流されるから、あれって思う。
ナツは久地さんに会いたくてロックナイトにきてたんじゃなかったのか?


「ナツは久地さん目当てじゃなかったのかよ?」
そのものずばり聞いてみると、

「まあ目当てっちゃ目当てですけどね、久地さんのかける曲ってセンス良いし、こんな私でもいつも話し相手になってくれるし、ホント尊敬してます。」


「それは、恋してるんじゃなくて?」

ずっと聞きたかったことを思い切って口にすると、
「そんなわけないじゃないですか、久地さん彼女居るしね。」
と、さらっと答えられてしまって、今までずっと悩んでいた自分が馬鹿らしくなってきた。
< 27 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop