恋をしようよ
「初めてカズヤさんを見かけたとき思ったんです、ああこの人は別世界の王子様なんだって。」

ナツは俯きながら、一言ずつ静かに話し出した。

「あの店にカズヤさんが入ってきたとき、すっと空気が変わった気がして、周りの女子がみんなざわついていて、それから一番綺麗な人に声かけてたなあ・・・私は隅っこの方で、それを見てるしかなかったです。」


ああもしかしたら、久地さんはナツのそんな気持ちをわかっていたのか?
だからあんなことを言ってきたのかもしれないとふと思った。

「ゴメンなんか、俺ずっと久地さんに言われるまで、ナツの事知らなかったし。姉ちゃんはずっと知ってたのにな。」

そういったとたん、「お姉さんって?」って聞き返されるから、姉ちゃんのことも少し話した。


「えっ?りんさんって、池乃壕の方だったんですか?たまに会うと、いつも声をかけてくれて、久地さんみたいになんでも話せて、凄く素敵な人だなっていつも思ってたんですけど、お姉さんだったなんて。」


そもそもあのクラヴに行くようになったのは、姉ちゃんの元彼があそこでDJやってたとかで、俺もロックを聴くようになってから、行ってみるかと姉ちゃんに誘われてからだった。

前の方で無邪気にじゃれあう蓮と桃をみながら、そういえばうちら姉弟もよくつるんで遊んでたなと懐かしく思い出す。今じゃ全然別行動になってしまったけど。



「そういえば、さっき見つけたって言ってたの、何のことですか。」

聞き流してくれたと思っていたのに、そう突っ込まれて思わず口ごもる。
やっぱり正直に言う事はできずに俯いていると、だんだんと頬が熱くなってゆくのを感じた。


「カズヤさん、なんか顔が赤いですよ、ちょっとどっかで休みましょう。」

ナツは熱中症かなんかと間違えてくれたようで、俺たちは江ノ島近くのカフェに避難することにした。
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