恋をしようよ
「カズヤさんは、何でいつも着物なんですか?」

二杯目のシャンディーガフを飲み干して、三杯目のカシスオレンジを飲みながら、彼女の方からやっと話を振ってくれるようになった。

「おれ、古典系の仕事してんの。これ普段着。」

「あーあれだ、お茶とか踊りとかそういうヤツ。」

「はずれ、生け花。」

そう教えてあげたら、似合わなーいって酔っ払いながら笑われた。



「カッコいいってよく言われるんだけどなあ。」

やっと本気で笑うようになったなって思ったら、何だか俺も楽しくなっていた。



あれ?
そういえば今「いつも」って言ったよな?前から俺のこと知ってたって事か?

「前に会った事あったっけ?」

「会ったというか、目立つから来てたらわかりますもん。話したのは今日が初めてです。」


今度は急に、恐縮されながら答える。


まあな、着物なら絶対目立つし、そんなに高身長でなくても栄えるから、カッコよく見られがちだ。
俺もあえて、狙ってこのスタイルでいつもきている。



「いつもナンパしてますもんね、綺麗なお姉さんと帰ってるのよく見かけます。」

そして、いつも違う人ですよねって、そこまで言われて、よく見てんなって思った。


「まあね、俺ももう歳だから、色々探してるわけよ。」

モヒートからスコッチのロックに切り替えて、グラスをくゆらしながらぼんやりと答えると、彼女の視線を感じた。

ふと横を見ると、じっと俺の顔を見ていたようだ。



「ほんと、誰でもいいんですね。」

怒ったような口調でそう突っ込まれる。なんか叱られてる気分。




「誰でもじゃねーよ。ちゃんと好きだなって思った子じゃないと声をかけないし。」


「じゃあ何で私と話してるんですか。」


「ナツも可愛いじゃん。」


絶対嘘だって・・・聞き取れないような声で彼女は俯きながら呟いた。







「あ、俺この曲好き。」


ちょうど久地さんが回し始めたところで、ルースターズの”恋をしようよ”が流れる。


「私も好きです・・・」

「だよな!」

思わず嬉しくなって、彼女の手を握って握手してしまったら、彼女は俺の顔を見てまた真っ赤になってしまった。



「ああでも、同じ恋をしようよでも、チバユウスケのやつも良いですよね?」

「ミッシェルの方な、あれもイイよな。」



さっきからしきりに、”やりたいだけやりたいだけやりたいだけ”という歌詞が連呼されるから、俺までちょっと恥ずかしくなってきていた。




まるで彼女にも、やりたいだけなんでしょうって言われている気がしてくる。



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