恋をしようよ
目黒の姉ちゃんの花屋の近くて蓮と桃をおろした後、俺はそのままナツのうちまで送っていった。

「少し寄っていっていい?」
またいつものように、嫌だと断られるかもしれないと思っていたけれど、今日はそんなことはなくて初めて彼女の部屋に入る事が出来て少し緊張する。いや、だいぶ緊張していたな。

ナツの部屋は、こじんまりとした2DKで、あまり物が置いていない。
テレビとオーディオだけは、やっぱり仕事柄良い物を揃えているみたいで、隣の壁にはびっしりとCDやレコードDVDと、音楽雑誌のバックナンバーが数種類揃えてあった。

テレビの前には、真っ赤なソファーがあって、そこに通されて座ると、ナツは当たり前のようにテレビをつけて音楽のDVDを流した。

「コーヒーとお茶と、どっちがいいですか?」

そう聞かれて、なんとなくお茶を頼んでみる。
この前飲んでいたハーブティのチョイスが気になって、ナツはうちでどんなのを飲んでるんだろうかと気になったから。

緊張を解くべく、ゆっくりと深呼吸してみると、部屋全体からナツの香りがしている気がして、何だか幸せな気持ちになる。

テレビからはずっと、ハードなギターのリフばかり演奏する、渋めのスリーピースバンドが流れていた。

「ルイボスティですけど、飲めますか?」

そう言って、よく冷えたグラスに入ったそれを渡されると、爽やかなグレープフルーツの香りもほんのりとしていた。

お礼を言って一口口に運ぶと、個性的な割にはとても飲みやすくて、とても好きな味だった。

「これ美味しいな…」

俺の隣に座って、同じお茶を飲んでいたナツの横顔を見つめる。
そう、この前俺の部屋に来てくれたときと同じように…

彼女がそんな俺に気が付いて、ふと瞳が絡み合う。
さっきまでギターリフばかり演奏していたバンドの次の曲は、どうしようもない恋の歌のカバーで、

ああ、キスがしたいと思ったその刹那、

今度は俺の方から、ナツの顎に手を添えて、そっと唇を重ねていた。




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