恋をしようよ
下北沢の町は、遅い時間でも人が多くて、どこからともなく楽しそうな宴会の声がしてくる。
すれ違う人たちも、ほろ酔いな感じでみんな週末を満喫しているようだった。

そうだ、明日はナツのお稽古の日だなとぼんやり思い出す。

「カズヤさん、今日はうちに来ますか?」

上目使いに俺の顔を覗き込んで、そんな風に聞かれるけど、今日はなんていうかそういう気持ちになれなかった。
さっきの矢上とかいう店員の言う事がずっと引っかかる。
俺は本当に、こいつを大事にしているのかな?
会って飯くってやるだけみたいな、今までのセフレとどう違うんだろうと、少し考え出していた。

「いや、どうせ明日お稽古だろ?またすぐ会えるし、今日は帰るわ。」

色々考えた挙句、少しの間があってそう答えると、ナツは急に寂しそうな顔をして俯いてしまう。

「やっぱり何か言われたんですね…」

「そんなんじゃねーよ、ただ…」

俺の知らないナツを知ってる奴が、なんだか羨ましくて、あの会話を聞いていただけでずっともやもやしっぱなしで、
「ちょっとやきもち妬いただけだよ。」

思わず心の声が、また漏れてしまった。

「じゃあ帰ろう、もう遅いじゃん。」

そういいながら、彼女の手をひこうとしたんだけれども、ナツは急に立ち止まってしまう。

「そんなの、私はいっつもですよ。いっつもいつもカズヤさんが他の女の人のとこいってるんじゃないかとか、もう会いに来てくれないんじゃないかとか、メールの返事がちょっと遅いだけでめちゃくちゃ不安になるし、いつ飽きられるか不安で不安で、毎日そんなことばっかり考えてて…」

本多劇場の手前の角をシェルターの方に曲がると、そこは少し静かな路地で、そこにナツの手を引いて二人で陰に隠れた。

「お前な、そんなことばっか言ってんなよ。」

そのまま彼女の小さな華奢な身体を抱きしめると、泣きそうなナツの瞳にキスを落とした。

「ちゃんと見ててよ、俺はお前しか見てないし、ちゃんと付き合うし、ナツが納得してくれるまでずっとそばに居るから。」

そういえばそうだ、もうあれからナンパはしてないし、ナツ以外の女とは会うこともなくなっていた。
意外と本気で好きになると、一人で充分なんだなと、正直自分でもびっくりしたくらいだ。


「じゃあ、今夜も一緒にいてくれますか?」

そんな風におねだりされたら、断れるはずもなくて、そのままたまらなくなって彼女の唇に今度は深くキスをしてしまっていた。
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