恋をしようよ
9
あれから数年の月日が流れ、俺たちはまだ同じような付き合いを続けていた。
土曜日のお稽古と、たまの食事やデート。毎日のメールのやり取りや寝る前の電話の会話、それが日常になって、お互い一緒にいるのが当たり前になっていったんだ。
その間に、桃は大野の嫁さんが始めた華道教室に行くようになったり、蓮は野球部の部活が忙しくて華道をやめたりしていたけれど。
土曜日の午後、最近は2人だけのお稽古で、そのまま終わった後は俺の部屋に来てやる事やって帰る事が多かったけれども、この日は違っていた。
俺の稽古なんてめったに見に来ない家元が、ナツの生ける花を見にやってきてしまったんだ。
何の前触れもなくくるからびっくりして「なんできてんだよ。」なんて言葉を荒立ててしまう。
「お前がいつまでも紹介しないからだろう。そちらが、夏川さんのお嬢さんかね?」
ナツは一気に緊張したような面持ちで、一瞬で三つ指を突いて頭を下げた。
「申しわけありません、もう何年も通わせていただいているのに、家元に挨拶も差し上げませんで。
夏川淳と申します。」
いつものナツからは、そういったかしこまった挨拶ができるとは思ってはいなかったのでひどく驚いてしまう。
「こちらこそ、ご挨拶が遅れてしまって。そちらの住職には当家もお世話になってますしね。さあ面を上げてください。」
ナツの生ける花の正面に座って、家元はじっくりとその様を見つめながら、
「やはりあなたの才能はすばらしい…」と、言葉を漏らした。
「いえ、私なんてまだまだです。型に嵌りすぎて、忠実に生けるばかりで、なんの新しい発想もなくて。」
「いいや、基礎は大事なものです。それをわかった上で、あなたなりのしっかりした生け花になっていますよ。」
ナツはそんな風にべた褒めに褒められながら、ずっと恐縮しっぱなしだった。
「もうカズヤに習っていても仕様がないでしょう?私のところに習いに来ませんか?こいつは基本的なことは教えられるけど、それ以上のことはまったくわかってない奴でして…」
いつものように俺の花を批判するような口調でそう言われると、昔からわかっていたけれどもやっぱり悔しくて俯いてしまっていた。
そういつだって、俺は姉より格下で、いつまでたっても認めてもらえなくて、この人にお前はダメだダメだといわれ続けてきたんだ。
母さんに習っていたときに覚えた自由なアレンジメントフラワーを取り入れつつ、自分なりの生け方を模索しつづけてはきたけれども、奇をてらいすぎているといつも批判されてばかりだ。
「お言葉ですが家元、それは違います。カズヤさんの生ける花は本物ですよ、花は音楽と同じです。いつも進化続けています。過去にこだわって自由に生けられないなんて、ナンセンスじゃないですか?」
ナツがしっかりと相手の目を見てそう言い切ったので、俺も家元もびっくりして言葉が出てこなかった。
しばらくして、親父の口から、何故か笑い声がこぼれていた。
それがどういう意味なのか、俺はびくびくしながら、何を言われるかと思っていたのだけれど、
「あなたは、和実と同じことを言うんですな。」
そんな風に言いながら、ナツの言葉を真摯に受け止めてくれていたようだった。
土曜日のお稽古と、たまの食事やデート。毎日のメールのやり取りや寝る前の電話の会話、それが日常になって、お互い一緒にいるのが当たり前になっていったんだ。
その間に、桃は大野の嫁さんが始めた華道教室に行くようになったり、蓮は野球部の部活が忙しくて華道をやめたりしていたけれど。
土曜日の午後、最近は2人だけのお稽古で、そのまま終わった後は俺の部屋に来てやる事やって帰る事が多かったけれども、この日は違っていた。
俺の稽古なんてめったに見に来ない家元が、ナツの生ける花を見にやってきてしまったんだ。
何の前触れもなくくるからびっくりして「なんできてんだよ。」なんて言葉を荒立ててしまう。
「お前がいつまでも紹介しないからだろう。そちらが、夏川さんのお嬢さんかね?」
ナツは一気に緊張したような面持ちで、一瞬で三つ指を突いて頭を下げた。
「申しわけありません、もう何年も通わせていただいているのに、家元に挨拶も差し上げませんで。
夏川淳と申します。」
いつものナツからは、そういったかしこまった挨拶ができるとは思ってはいなかったのでひどく驚いてしまう。
「こちらこそ、ご挨拶が遅れてしまって。そちらの住職には当家もお世話になってますしね。さあ面を上げてください。」
ナツの生ける花の正面に座って、家元はじっくりとその様を見つめながら、
「やはりあなたの才能はすばらしい…」と、言葉を漏らした。
「いえ、私なんてまだまだです。型に嵌りすぎて、忠実に生けるばかりで、なんの新しい発想もなくて。」
「いいや、基礎は大事なものです。それをわかった上で、あなたなりのしっかりした生け花になっていますよ。」
ナツはそんな風にべた褒めに褒められながら、ずっと恐縮しっぱなしだった。
「もうカズヤに習っていても仕様がないでしょう?私のところに習いに来ませんか?こいつは基本的なことは教えられるけど、それ以上のことはまったくわかってない奴でして…」
いつものように俺の花を批判するような口調でそう言われると、昔からわかっていたけれどもやっぱり悔しくて俯いてしまっていた。
そういつだって、俺は姉より格下で、いつまでたっても認めてもらえなくて、この人にお前はダメだダメだといわれ続けてきたんだ。
母さんに習っていたときに覚えた自由なアレンジメントフラワーを取り入れつつ、自分なりの生け方を模索しつづけてはきたけれども、奇をてらいすぎているといつも批判されてばかりだ。
「お言葉ですが家元、それは違います。カズヤさんの生ける花は本物ですよ、花は音楽と同じです。いつも進化続けています。過去にこだわって自由に生けられないなんて、ナンセンスじゃないですか?」
ナツがしっかりと相手の目を見てそう言い切ったので、俺も家元もびっくりして言葉が出てこなかった。
しばらくして、親父の口から、何故か笑い声がこぼれていた。
それがどういう意味なのか、俺はびくびくしながら、何を言われるかと思っていたのだけれど、
「あなたは、和実と同じことを言うんですな。」
そんな風に言いながら、ナツの言葉を真摯に受け止めてくれていたようだった。